5 あなたが自分の意志で選び取ることができること
文字数 8,049文字
「すぐにレスコーリアが気づいてくれて助かったよ」ミシスが吐息をつきました。
「寝てるのがレスコーリアで、起きてるのが僕だったら、気づけなかったかもしれない」マノンがうなずきます。「無事にやり過ごせて本当によかった。助かったよ、レスコーリア」
グリューの頭の上に座っているレスコーリアが、ぺらりと手を振ります。
「それで、連中はまったく気づかずに行っちまったんですね?」グリューがたずねます。その両目のまわりには、ゴーグルの跡がまだくっきりと残っています。
「まちがいなく」マノンが断言します。
青年は神妙な面持ちでうなずき、部屋の奥に置かれたソファに腰かけます。「このひと月で〈バディネリ〉を目撃したのは、これで三度目になりますね。今まで何事もなかったのは、幸運だったと言うべきか……」
「これだけ広い荒地だもの」レスコーリアが肩をすくめます。「よっぽど大掛かりな包囲網でも敷かれないかぎり、そう簡単には見つかりっこないわ」
「だといいけどな」青年は小さくうなずきます。「ま、それはそれとして、今回のことであちらさんの
「どういうこと?」壁際に設置された書架の前にミシスと並んで立っているノエリィが、首をかしげます。
「つまりさ。もし連中が〈リディア〉の秘密を正確に把握しているとしたら、もっと死に物狂いで追ってくるはずだってことだよ。それこそ、一時的に拠点の防備が手薄になるのも
「え。そこまで?」ノエリィは頬をひきつらせます。
「ということは」ミシスが眉間に皺を寄せます。「やっぱり、向こうの軍の偉い人たちなんかも、いまいち判断がつきかねてるってことなのかな。だから、あんまり真剣にはわたしたちを追っかけてこない」
「どうやらその可能性が高そうだね」操縦席に深く腰かけたマノンが、組んだ脚を入れ替えながら同意します。「だって、顕術とおぼしき力を操るカセドラと遭遇した、なんていう冗談みたいな報告を真に受ける人間なんか、そうそういやしないだろうからね。でも、リディアと交戦したあの赤い新型のやつ、あれがあそこまで手酷く破壊されたっていう事実は、連中も相当深刻に受けとめてるはずだ。だからこそ、こうしてしつこく捜索を続けてるんだろう」
ふいにグリューが立ち上がりました。そして二人の少女のあいだに割って入り、書架から地図の冊子を抜き取ると、ソファの前から引っぱってきたコーヒーテーブルの上に広げました。
そこに現れた大陸全図に一同の視線が注がれます。
「おれたちが今いるのはここだ」青年の指先が、大陸北東部に位置するビスマス地方の一点に置かれます。「見てのとおり、ここから西側に拠点を持つコランダム軍からさらに遠ざかろうとするなら、まぁ、北か南に進むのが妥当だ」
「東は海しかないもんね」ミシスが地図の上に身をかがめます。
「うん」青年がうなずきます。「だけどこうして見るかぎり、このでかい船を隠したまま安全に暮らせる場所なんて、北にも南にも、あるいはそのほかのどこにも、そうやすやすとは見つからないだろうな」
しばらく時が止まったような重い沈黙が、室内に充満しました。西の空に居残る
「……あのさ」ためらいがちにノエリィが口を開きました。「わたしたちって一応、国王陛下からとくべつな任務を与えられてる部隊なんだよね。だったら、その、どこかに一つくらい、わたしたちのことを無条件に
申しわけなさそうにマノンが首を振ります。「それができたら助かるけどね。でも残念ながら、やはりその危険は冒せないよ。前にも説明したとおり、リディアの存在を知ることが許されているのは王国中枢でもごく少数の関係者だけで、それ以外の誰かには、たとえそれが政府や軍の人間であっても、決して知られるようなことがあってはいけないんだ」
「う~ん。やっぱり、そうなんですね……」
「じゃあこのままずっとここに隠れ続けるしかないんでしょうか」ノエリィに肩を寄せながら、ミシスがたずねます。
マノンは操縦席の背もたれに頭を載せて天井を見あげます。「そうだねぇ。今のところはそれしかないかなぁ。そろそろ船もリディアも、ちゃんとした整備をしてやりたいんだけどね」
「町で調達できる資材なんかには限度がありますからね。それにおれたちはこの船を造りはしたけど、こと本格的な整備となると、どうしても専門の技術者の手助けが必要になります」グリューが続きます。
「次回の王都との定期連絡は二日後だ。本当は今すぐにでも協議したいところだけど、レーヴェンイェルム将軍も激務に追われておられることだろうし、もうしばらく自分たちで策を練ってみよっか……」ぐるんぐるんと右に左に座席を回しながら、マノンが嘆息しました。
「まったく……どう収まるのが正解なのか、よくわからんことになっちまいましたね。世界も、おれたちも」
青年がつぶやいたその言葉に全員が同調して、まるで落日と共に一斉にしぼんでしまう花々のように、しゅんとうつむきました。
そこで突然、きゅっという小動物の鳴き声のような音が、グリューの頭上で鳴りました。
青年はにやりと笑いました。「ははん。威勢のいい腹の虫だな」
レスコーリアがお尻の下の座面をげんこつで殴りつけます。
「いてっ!」椅子が顔をしかめます。
「乙女をからかうもんじゃないわ」
「僕もお腹すいた」マノンが座席の回転をぴたりと止めます。「こうしてても始まんないし、ひとまずごはんにしよっか」
「実はさっきからおれも腹が減ってしかたなかったんだ。食材もたっぷり調達してきたし、暗い気分をぶっ飛ばす最高の晩飯を作ろう」グリューが両手を握りあわせてぽきぽきと指を鳴らします。
「わたしたちも手伝うよ」ミシスとノエリィが一緒に申し出ました。
「ああ、頼むよ」
「じゃあ僕も」長い髪をひるがえしてマノンが身を起こします。
「あ、いや、もう手は足りてます。師匠は休んでてください」
「なんだい。僕を邪険に扱う気かい」
「いやいやいや、そんなんじゃないですよ。ほら、四人も入ったら、調理場いっぱいになるから……」
すかさずノエリィが二人のあいだに飛び込みます。「そうだ、ならマノンさんには、テーブルやお皿の支度をお願いしてもいいですか?」
「え? ……うん。わかった」
「はいはい、じゃあ調理場へ進めぇ。全力前進~」胸を撫で下ろす青年の頭上で、レスコーリアがぴしっと人差し指を突き立てました。
号令に促されるがまま、従順な
「……ねえ。尻に敷かれるって表現がこんなに似合うこと、あるかしら?」
ノエリィがミシスに耳打ちすると、ミシスはたまらず吹き出してしまいました。
「なんだ。なにか可笑しなことでもあったか」青年が立ち止まって振り返ります。
「う、ううん。なんにも」
二人は首をぶんぶん振ってほほえみました。
いつものように星々と燭台の灯りに照らされる甲板上の食卓を囲んだ一同は、グリューが腕によりをかけた逸品を堪能しました。
「は~、今日もおいしかった」それぞれにお腹をさすりながら、ミシスとノエリィが一緒に言いました。「ごちそうさまでした」
「どういたしまして」グリューが丁寧に頭を下げます。そしてそのままの姿勢で、小さくため息をつきます。「しっかし毎度のことながら、夏の太陽が恨めしいったらないよ。港町に出向いて魚を買ってこれないってのは、なんとも情けないもんだ。パズールの港にはさ、毎日新鮮な魚介が山ほど揚がるんだぜ。気の利いた海鮮料理を出す店も、町じゅうにごまんとあるんだ。ぜひきみたちにも食べてほしいね」
「いいなぁ~」二人はまた声を揃えます。
「そのうちみんなで行けたらいいね」マノンがほほえみます。
「おっと、そうだ。二人とも」青年が顔を上げます。「水汲み、ありがとな。今夜これから給水に飛ぶつもりだったけど、明日に延ばせそうだ」
白ワインのグラスを傾けながら、マノンがうなずきます。「ほんと、細かいことによく気がつくんだから。僕も見習わなくちゃいけないな。二人とも、ありがとう」
「いえ、そんな。わたしたちみんなが必要なものですし」ミシスが首を振ります。
「さて、そんじゃあ、空いた時間でなにをするかな」グリューが椅子に座ったまま背伸びをします。
「前やってた研究はどうなったわけ」卓上の小さなクッションに座ってさくらんぼを齧っているレスコーリアが、口をもぐもぐさせながらたずねます。
「ちょっときりの良いところまで進んだから、一日か二日くらい頭を冷やそうと思ってる」
「へぇ。なんか意外」ノエリィが言います。「グリューもマノンさんも、起きてるあいだはずっと研究をしてなくちゃ気がすまない人たちなのかと思ってたよ」
研究者の二人は顔を見あわせて苦笑します。
「それが研究にとって最善の成果を生むっていうなら、そうするさ」マノンが言います。「でもね、時にはいったん立ち止まって、意識的に頭と体を課題から遠ざけて一休みした方が、結局うまくいくんだよ」
そのとおり、とばかりにグリューが大きくうなずきます。
「休んだり遊んだりすることの価値を知らない研究者は、一人前にはなれない――ですよね、師匠?」
ふっと息をつくと、マノンはいつになく無防備な笑みをこぼしました。
「懐かしいなぁ……」
ミシスとノエリィが一緒に首をかしげます。
「あのね、今の助手くんの言葉はね、僕の師匠の教えなんだ」
「師匠?」ミシスがぽかんと口を開けます。「マノンさんにも、そういうかたがいらしたんですか?」
「……うん」マノンは地平線の向こうへ遠い目を向けます。「僕が胸を割って話すことのできた、唯一の先輩だった。元気にしておられるかな……」
「ふ~。食べた食べた」
お腹いっぱいになったレスコーリアが、よろよろと浮上していつもの指定席――緑の髪の頭――に座り込みました。そしてにお尻の下に向かってたずねます。
「じゃあ、今夜はもう休むわけ? それともなにかして遊ぶ?」
「あぁ、そうだな……」青年はぼんやりと夜空を眺めます。
「チェスでもするかい、助手くん」マノンが不敵な微笑を浮かべます。
「やですよ。かれこれ師匠相手に千戦千敗ですからね」
「……あのさ、グリュー」それまでおとなしくお茶を飲んでいたノエリィが、とつぜん口を開きました。「お願いがあるんだけど」
その声に含まれるかすかな緊張の響きに勘づいて、全員が彼女に視線を集めます。
「まさか、ノエリィ……」なにかを察したミシスが、隣の少女の顔をのぞき込みます。
「今日もずいぶん疲れただろうし、わるいとは思うんだけど」ノエリィは青年をまっすぐに見据えます。「もしよかったら、わたしにバイクの乗りかたを教えてくれない?」
「え? 今から?」グリューは目を点にします。
「音がうるさいかな? 暗いと危ないかな?」テーブルの上に身を乗り出して、少女は青年に迫ります。
「別にいいんじゃない」レスコーリアがひょいと肩をすくめます。「こんな誰も寄りつかない荒野で多少の駆動音が響いたって、どこにも届きゃしないわよ。それに、まわりの様子にはいつでもあたしが気をつけてるし」
「……まぁ、おれはそこまで疲れてないし、かまわないけど」少女の熱意につられて、グリューは居ずまいを正します。「本気だったんだな、ノエリィ」
少女はきっぱりとうなずきます。その眼鏡の奥の瞳は、燭台の炎よりも明るく燃えています。
いつもは少しのんびりとしたところのある彼女が、この揺るぎない光を瞳に灯した時には、誰よりも頑固でひたむきになることを、ミシスはよく知っていました。だからもう、あえて口出しはしません。その代わり、大きなため息を小分けにして、鼻からちょっとずつ吐き出しました。
その人知れず膨らんだり縮んだりする鼻をグラスの陰から観察していたグリューは、鼻の持ち主の少女に気づかれないように小さく笑うと、おもむろに宣言しました。
「よし。なら、ここの片づけが済んだら、いっちょやるか」
「やった!」月まで飛んでいきそうな勢いで、ノエリィは小躍りしました。
夕食後、ノエリィとグリューはバイクを押して船を出ると、崖と崖の隙間から少しだけ外へ進み出た平地のあたりで、即席の運転講習を開始しました。間近から心配そうな目を向けられてはかえって気を散らせてしまうだろうと思い、ミシスは船の甲板に腰かけて遠くから見守ることにしました。
青年はまず車体の構造について細かく説明すると、みずから座席にまたがって少し走ってみせました。ノエリィはその一挙一動を食い入るように観察し、青年が演じてみせる動作を何度も真似て、操縦手順を頭に叩き込んでいるようです。
ふと、なにかの気配に気づいたミシスは、頭上を見あげます。
真円に近いふっくらとした月に重なるようにして、羽を広げた小さな人影が踊っています。くるくると螺旋を描きながら降下してくると、彼女はミシスの膝の上に着地しました。
「レスコーリアは近くまで見に行かないの?」
「遠くから眺めるくらいがちょうどいいわ」
直後、どるるんという鈍い響きが、再び周囲の大気を震わせます。
今、バイクに乗っているのはノエリィです。
ミシスは一瞬、心臓がぎゅっと縮むのを感じます。けれどそのまま目を逸らさずに、固唾を呑んで親友の奮闘を見守り続けます。さいわい、何事においても几帳面で用心深いグリューが、すぐに手助けしたり体を支えたりできるよう、ハンドルを握る少女のすぐ横に付き添ってくれています。
「そんなに心配しなくたって大丈夫よ」レスコーリアが少々呆れるように笑って、ミシスの膝をぽんぽんと叩きました。「あんなの、カセドラを動かすのに比べたら、ただ揺り椅子に座ってお茶を飲むくらい単純なものよ」
「そう言われても、心配なものは心配だよ」ミシスは唇を尖らせます。「だって見てよ。あの、座席にまたがるだけで精一杯って感じの、女の子の姿を……」
「ふふっ。けっこう
「もお。レスコーリアはなんでも面白がっちゃうんだから」
「あら。あたしのこと、そんなふうに思ってたの?」
「え、ちがうの?」
「んー……まぁ」顎に指先を添えて、小さな少女は空を仰ぎます。「それは、うん、そのとおりかもね」
「でしょ」
「でもね、これはあたしっていうより、大多数のアトマ族に共通する普遍的な資質だと思うわ。あたしはそこまで同族の人たちとつきあいが多かったわけじゃないけど、これまで会った人は、みんな揃いも揃ってお人好しばっかりだったもの」
「たしかに……アトマ族の悪人とか暗い感じの人とかって、不思議と想像がつかないな。そう言えば、レスコーリアが悩んだり落ち込んだりしてるところも見たことない。ねぇ、あなたはそういうことってないの?」
「そうねぇ。だってうつむいてたって、心地良いイーノの波動は生まれないもの」
「……そっか。やっぱり、わたしたちの心模様に反応するものなんだね。イーノって」
「当たり前じゃない」レスコーリアはごろんと仰向けに寝転びます。「優しさ、前向きさ、ひたむきさ。愛情、勇気、情熱。思いやり、慈しみ、喜び。そういう心と一緒にいる時、イーノは光の歌をうたうの」
「じゃあ……そうじゃない心とは? たとえば、不安とか恐れとか、怒りとか恨みとか……」
「もちろん、そういうものともイーノは一緒に歌うわ」レスコーリアはさらりとこたえます。「だってイーノはすべてだから。なにも選り好みしたりしない。あたしたち一人一人の心の状態をそっくりそのまま鏡みたいに反映して、どんな時にも常に一緒に歌ってくれる。ただ――」
「……ただ?」その続きを聞くのは少し覚悟がいることかもしれない、と直感しながらも、ミシスは問わずにはいられません。
「ただ、そういった否定的な心を映す時のイーノの力には、注意することね。その時のイーノの歌は、ともすれば滅びの歌になる」
「滅び……」背筋に冷たいものを感じながら、ミシスは息を呑みます。
「でも、滅びが悪しきものだっていうわけじゃないのよ。万象は陰と陽から成り、万物は滅びと誕生の循環をくり返す。誰でも知ってる世界の摂理ね。イーノから見れば、花が枯れるのも、新芽が生まれるのも、まったく等価の出来事。どちらも等しくおなじ神秘の顕現。おなじ尊さをもつ奇蹟。だからこそ、自分自身によく訊いてみるべきね。どんな想いや信念を抱いて、どんな歌をイーノと共にうたいたいのか」
「すべては自分の心次第、ってことだね」
「そういうこと」
音もなく夜風が吹きつけて、二人の髪をかすかに揺らします。
ふいに柔らかく微笑すると、レスコーリアはミシスの目の高さまで浮かび上がりました。そして面と向かって静かに語りかけます。
「いい、ミシス。〈リディア〉には、とてつもない可能性が秘められてる。いったいどれほどの
いっとき呼吸をするのも忘れて、ミシスはじっと耳を傾けます。
「さっきも話したように、あたしたちアトマ族は、もともとあんまり激情に振り回されたりしないように創られてる。それだから、気を取り乱した状態で顕術を使ったりすることなんか、本当に滅多にないわ。でも、リディアはちがう。だって、リディアの心はあなた……一人の生身の人間である、ミシスそのものなんだもの」
「……やっぱり、あの時の、あのめちゃくちゃな顕術は……」
「そうよ。はっきり言っておくわね。恐怖。絶望。後悔。悲観。そして憎悪に、くれぐれも用心なさい。暗く荒んだ方向へ心を引き込む力に、いつも気をつけていなさい。不安や心配に囚われるのはあなたたち人間の宿命だから、すっかり捨て去れとは言わないわ。けれど、それでも、光に満ちた世界を見たいのなら、希望に満ちた世界を生きたいと願うのなら、いつでもあなた自身の心を優しく、温かく、強くまっすぐ保つのよ。それは、宿命や環境に縛られることなく、いつでもあなたが自分の意志で選び取ることができることなんだから」
レスコーリアは手を前へ差し伸べ、ミシスの胸の中心をとんと一押ししました。
「……わかったわ」ミシスは深くうなずきます。
「大丈夫よ。あなたなら。あなたたちなら」レスコーリアは再び上空へ舞い上がって、その身を月と一体化させます。そして愉快そうに地上を指差します。「見なよ、あれ」
「あっ!」促されるまま眼下を見おろしたミシスは、思わず腰を浮かせました。
いつの間にか、ノエリィが完全に一人きりでバイクを操縦しています。グリューは離れた場所にぽつんと立ち、呆気にとられたような表情を浮かべて笑っています。すでに教え子に対してなんの心配もしていない様子です。
そのままぐるぐると円を描くように平地を走りまわったノエリィは、教官の指示を受けて少しずつ速度を上げていきました。やがてすっかりこつをつかんでしまったのか、向こうに見える丘陵の頂まで一直線に駆けのぼりました。
そこからまた軽快に飛ばして元の場所に戻り、バイクなんて生まれた時から乗っていたわといった感じで颯爽と停車すると、晴ればれとした表情でヘルメットを脱ぎました。青年がぱちぱちと手を叩いて称賛します。
嬉しそうに笑いながら、ノエリィは船の甲板に向かって大きく手を振ります。
ミシスもまた相好を崩して、めいっぱい両手を振り返しました。
「ほらね」レスコーリアはほほえんで、そのまま月夜の空中散歩へ出かけていきました。
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