ザ・ウィスキーワンダラー

文字数 4,984文字

 窓ガラスに打ち付ける雨音で目が覚めた。まるで小さな指が合唱して物悲しい曲を奏でているようだった。カーテンから漏れる薄暗い光が、狭いアパートに不気味な陰鬱さを漂わせ、永遠に薄明かりの領域に閉じ込められているような気分になった。昨晩飲んだウィスキーの残滓を目を擦って追い払い、足をベッドの端から投げ出して、ぐったりとした旗のように宙にぶら下げた。
「くそっ、ジェシカ」と私は自分自身に向かって独り言を言った。
「いつからこんなに陳腐な人間に成り下がったんだっ」

 私は足をひきずるようにして、裸足で冷たい床にぺたぺたと音を立てながらキッチンに向かった。コーヒーメーカーは昨晩の暖かさがわずかに残っていた。私は生ぬるいコーヒーをカップに注ぎ、その苦い味に顔をしかめた。
 コーヒーをすすりながら窓の外を眺めて立っていると、まるで停滞した沼に溺れているような気分になった。私の人生は波紋もさざ波もない、よどんだ溜め池のようになり果てていた。

 ちょうどそのとき、カウンターの上の携帯電話がけたたましく鳴った。私は、自分の陰鬱な考えから気をそらすように電話を取った。
『ハロー、ジェシカ! リリーよ。ダウンタウンに新しく出来たダイナーでランチしない? すごく美味しいハンバーガーがあるって聞いたわっ!』と彼女は陽気に言った。その声は曇天を吹き飛ばす太陽の光のようだった。
 私は少しためらってから、「リリー、ごめん……今日は人と会う気分じゃないの」と答えた。
『何言ってんのよっ! あなたには新鮮な空気と人との交流が必要なの! それに、あなたに伝えたいビッグニュースがあるのよっ!』
 私はその話に好奇心がそそられ、午後 1 時に彼女とダイナーで会うことに同意した。

 私がダイナーに入ると、リリーはすでに窓際のブースに座って、ミルクシェイクをすすっていた。彼女の明るいピンク色の髪は、くすんだ装飾の中で一際(ひときは)派手に目立ち、彼女の魅力溢れる笑顔は店内を明るく照らしていた。
「ヘーイ、久しぶりっ!」
 彼女は叫び、私のために席を空けてくれた。私はブースに滑り込んだが、先ほど不機嫌だったことに対する罪悪感を感じていた。
「さっきはごめん。今日は気分が乗らなかったの」
「気にしないで! 誰にでもそんな日はあるものよ。さあ、食事を注文して近況を語り合いましょう!」
 私たちは食事が運ばれて来るのを待っている間、仕事や趣味についてのたわいもないお喋りをした。リリーはいつも気さくに話せる楽しい友人だ。

 彼女は最新のアート プロジェクトについて、手を大きく振りながら話し始めた。私は熱心に聞き、うなずきながら、適切なところで相槌を入れた。しかし、私の心は、お気に入りの噛みごたえのあるおもちゃに戻った犬のように、自分の停滞した生活に引き戻され続けていた。
 料理が運ばれ、私たちは見るからに美味しそうなハンバーガーにかぶりついた。その味は確かに素晴らしく、夏の夜の花火のように味覚と風味が口中に広がった。一瞬、私は悩みを忘れ、食べるという単純な喜びを味わっていた。

「それで、私に伝えたいビッグニュースって何?」
 私は口の周りに付いたケチャップを拭き取りながら尋ねた。リリーの顔はクリスマス ツリーの電飾のように明るくなった。
「実は、ダウンタウンのギャラリーから仕事のオファーをもらったの! 次の展示会で私の作品を展示したいそうよ!」
「うわぁーっ、それはすごいね、リリー! おめでとうっ!」
 私は興奮して大きな声を出し、そのせいで飲み物をこぼしそうになった。
 私たちは昼食の残りを、大学時代と同じように笑ったり冗談を言い合ったりしながら、彼女の幸運を祝って過ごした。

 私たちがレストランの外で別れるとき、リリーは真剣な表情で私のほうを向いた。
「ジェシカ、最近のあなたは大変だったと思う。でも、そのマンネリから抜け出す必要がある。今夜、私のアートスタジオに来て、展示会の準備を手伝ってもらえない? 絶対に楽しいから、約束する」
 私は少し考え、ためらいながらうなずいた。
「うん、そうだね、それは今、私が必要としているものかもしれない」

 その夜、私はリリーの狭いけれど居心地の良いスタジオで、キャンバスと絵の具が飛び散ったイーゼルに囲まれていた。私たちは心地よい沈黙の中で作業を進めている。
 私は小さなグラスでウィスキーをすすりながら、ジャズの柔らかな音色と、時折グラスがカチャカチャと鳴る音だけを聞いていた。作業中、薄暗い照明がリリーの顔立ちを際立たせ、まるでルネッサンスの絵画が生き生きとしているように見えた。

 私たちの会話は、田園地帯を流れるゆったりとした川のようにスムーズに流れていった。
「ねえ、ジェシカ」と彼女は、特に難しい筆遣いの箇所を見つめながら言った。
「私はずっとあなたには文章を書く才能があると思っているの。もう一度やり直して、昔のように詩でも書いてみたらどうかしら」
 私は思わず鼻を鳴らし、ウイスキーを吹き出しそうになった。
「私が? 詩? 今さら冗談でしょ」
 しかし、リリーの言葉は、私たちが作業を終えた後もずっと私の心に残っていた。

 リリーのスタジオから家まで歩いて帰る途中、ウィスキーの酔いがさめ、私の心は彼女の言葉によって再びさまよい始めた。
「詩? 私が? 馬鹿げている」
 それでも、私の心の片隅では、その考えを振り払えなかった。

 私はその夜、アパートの部屋の中を爪を噛みながら歩き回ったり、テレビ番組やビデオゲームで気を紛らわせようとした。しかし、頭の中では「もう一度始めなさい。詩に挑戦してみてもいいかもしれない」という言葉が、マントラのように響き続けた。

 午前 2 時頃、ついに私はその考えに屈服し、古いノートパソコンを開いた。画面は暗闇の中で灯台のように輝き、私は永遠に感じられるほどの長い間、空白のページを見つめていた。そして、何も考えずに、私はタイピングを始めた。
 すると言葉が、決壊したダムから水が流れ出すように、乱雑で混沌とした奔流となってページ上に流れ込んだ。それは強く、激しく、そして壮大だった。私は、雨に濡れた通りやウィスキーの染みついた夜など、ありとあらゆることについて書き、また何でもないことについても書き(つづ)った。

 ようやくタイピングを止めたとき、ごみごみとした街の上に明るく太陽が昇り、私の狭いアパートに金色の輝きを投げかけていた。私は自分が書いたものを読み返し、ページから飛び出してきた生々しい感情に身をすくめた。しかし、その混沌の中に、何か本当のこと、真実のものがかすかに見えた気がした。

 その後の数日間、私は何度も何度もその古いノートパソコンを開き、自分の考えや感情をページに書き綴っていた。それはまるで私の中で火山が爆発し、何年も抑えられていた言葉や感情が灼熱のマグマのように吹き出している気分だった。

 リリーは最初に私の変化に気づいた。
 1週間後にコーヒーを飲みにカフェで会ったとき、彼女は私から放たれている新たな活力に眉をひそめた。
「ジェシカ、どうしたの? やっとまた元気を取り戻したみたいだけど?」
 私は何年も感じていなかった誇りと達成感を感じながら、微笑み返した。
「また書き始めたのよ、詩をね」
 リリーの顔が一瞬で、夜空に打ち上がった大輪の花火のように明るくなった。
「すごいっ! やっぱりあなたはそれができる人だって、私は確信してたのよっ!」
 私は彼女に執筆について色々と話しているうちに、私は詩について話しているのではなく、私の人生そのものについて話していたことに気づいた。そして夏の朝に霧が消えていくように、私の中で淀んで停滞していた陰鬱な気分が、光に向かって昇華して消えていくのを感じた。

 数週間後、リリーの展覧会がダウンタウンのギャラリーで開かれた。彼女の作品は素晴らしく、色彩と感情が独自のリズムで生き生きと脈打っているようだった。私たちは絵の前に立ち、シャンパンを飲みながら、芸術とインスピレーションについて深く語り合った。

 展覧会の最後に、リリーはマイクを手に取り、訪れた人々に向けて語りかけた。
「皆さん、ありがとうございます。今夜は私の人生で最も大切な夜の一つです。でも、もう一人の人物にもスポットライトを当てたいと思います」
 そう言うと、リリーは私を指さした。
「この人物こそ、本当の芸術家です。ジェシカ、あなたの詩をここで朗読してもらえないかしら?」
 私は身じろぎした。自分の詩を公の場で読むなどとは、今までに考えたこともなかった。しかし、リリーとギャラリーにいるすべての人々が、私を熱い視線で期待を込めて見つめていた。
 私は覚悟を決めてゆっくりと前に出ると、リリーからマイクを受け取った。

「それではお聞きください、これは『夜のウィスキー』という詩です」
 私はその場で思い付いた即興の詩を朗読し始めた。言葉は私の唇から次々とこぼれ落ち、音波のリズムに乗って部屋中に広がっていった。ギャラリーは静まり返り、私の詩の世界に酔いしれているように見えた。
 最後の詩行を終えると、拍手喝采の渦に包まれた。リリーが走り寄って来て私を強く抱きしめ、頬に何度もキスをした。そして誇らしげな満面の笑みで讃えてくれた。
「すごくよかったわよっ! すばらしかったっ!」


 その夜遅く、私たちはリリーのスタジオで何杯もの祝杯のシャンパンを空けた。
「ねえリリー」
 私はつぶやいた。
「本当にありがとう。あのとき詩を書き始めるように勧めてくれて」
 彼女は笑顔で手を振った。
「私はただ、あなたの才能を信じていただけよ。文章を書くことは、あなたの人生にとって本当に必要な行為なんだって思っていたから」
 それから私たちはウィスキーを飲み、空のボトルが床に転がるまで笑い合った。

 やがて夜が明けはじめた。太陽の最初の光がスタジオの窓から差し込んできた。私は心からくすくす笑った。人生にはいつも新しい始まりしかない、と気づいたのだ。

 その朝、私はアパートに戻る途中、朝の新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込んだ。歩きながら、次の詩のアイデアが心の中でひらめいた。私はその瞬間を言葉に置き換えようと考える。
 リリーが正しかった。私には文章を書く喜びがあった。私の人生の目的は、この世界の美しさを言葉で表すことだったのだ。

 その日以来、私はついにアルコール頼りの日々から解放され、代わりに言葉を(つむ)いで、生まれ出た文章に酔い痴れるようになった。


(使用AI:Meta Llama 3 70B)+(Claude 3 Sonnet)

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※「Meta Llama 3 70B」が途中でエラーを起こしてしまって、どうやっても続きを書いてもらうことが不可能になったので、『数週間後、リリーの展覧会がダウンタウンのギャラリーで開かれた……』以降は「Claude 3 Sonnet」に続きを書いてもらいました。(「Meta Llama」はかなり不安定なAIで、頻繁にエラーになります。AI本体のせいなのか、それともシステム的な何かなのかは分かりませんけど)

この小説もGoogle翻訳で英語に訳したプロンプトを入力して、英語で出力された文章を翻訳してもらいました。でも今回は試しにGoogle翻訳だけではなく、「GPT-4 Turbo」「Copilot」「Claude 3 Sonnet」「Gemini Pro 1.5」にも翻訳してもらいました。

違うAIで翻訳してもらうと、それぞれに微妙に違う表現での日本語訳になっていて面白かったです。元となる海外作家の文章が同じでも、○○訳とか翻訳者によって違うバージョンが存在するように、AIによって表現の仕方が違うのが興味深いです。

この小説は一番自然で普通っぽかった表現のGoogle翻訳を主体の文章として、その他のAIでの翻訳で、そちらの方が良さそうな部分を少し混ぜてあります。

(この小説は原題が『The Whiskey Wanderer』で、その訳された日本語のタイトルが「ウィスキーの放浪者」でしたが、単純にカタカナにした「ザ・ウィスキーワンダラー」のほうがカッコイイかな、と思ってそうしました)


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