時を越えた約束
文字数 2,254文字
雨粒が窓に無情に打ちつける。冷たい雨の中、薄明にぼんやりと佇む破壊された街の景色。ふと視線を外に逸らすと、始発列車が焦土と化した、遠くの地平から姿を見せた。一陣の風が私の長い黒髪をなびかせる。それでもなお、外の世界からは目を逸らさないでいた。
「やっぱり来ないわけだ」
幼馴染の彩と共に、交わした約束を思い出していた。私たちの道はここで分かれたはずだった。
学生時代から注がれた努力と、夢を諦めることなく前に進む強い意思。それらは全て、遺跡から見つかった古 の力で人類を救う、「救世主」になることを願ってのことだった。しかしそれは小さな町の少年少女の夢に過ぎず、現実はそう甘くはなかった。
「今頃、地球の命運を左右する戦いに身を投じているんでしょうね」
私は込み上げる思いをこらえながらつぶやいた。古の文明の力に選ばれ、その力を身に宿した彩が、遥か宇宙の彼方で、今や人類最後の希望となって戦っているのだ。
私の目に始発列車のライトが映る。そう、あの日も朝日が昇るとき、わたしは彩をいつものこの駅で見送っていた。
「汚い格好のまま会いに来てごめんね、悠」
あの時彩はそう言った。薄汚れた防護服に身を包み、私をすまなそうに見つめていた。
「大丈夫、いつも汚い格好をしているあんたには、慣れているから」
私はそう返し、彩の頭を撫でた。するとなぜか彩は俯き、もじもじしながら頬を紅潮させてつぶやく。
「な、なによ。なんだかあんた、すごいテクニシャンだね」
「うふ、それはいつものことでしょ。じゃあ、こんなのはどう?」
「あ、それは!」
私たちはたわいもない会話で笑い合った。侵略により、夢半ばで叶わなかった日常がそこにあり、それは二人にとっての心の拠り所となっていた。
彩はそのまま、黒光りする軍用装甲列車に乗り込んでいく。私は最終決戦に臨む彩の背中をしっかりと見送った。そして私はこの街で最期の日々を過ごすことになる。彼女とはある約束をした。どちらかが生きて帰って来れたとしたら……。
「ああ、そうだった」
無数の爆撃音と共に、私の意識は現実に引き戻された。
遥か宇宙の果てで、部隊の一人として戦う彩。そして地上に残され戦う私。
今この瞬間、彩は戦いの最中なのだろうか。あの時の始発列車を思い出しながら、私は我が思いに心を馳せていたのかもしれない。
爆撃音が止んだ後、私は立ち上がり、銃を構えて塹壕から外に出た。雨に打たれながら外を見渡す。凍てつく冷気が肌を締め付ける。
しかしその時、遠くの空が一瞬の光を放った。あれは太古の文明の記録が伝える究極兵器「起動の鍵」の光だ。
「彩、やったのねっ!」
ほっと安堵の溜息をついた私に、別の気づきがあった。私の目から何かが溢れ出ているのだ。
見れば、宝石の涙が頬をしとどに伝っていく。
きっと神秘の力を持つ彩の気持ちが私の心に届き、それに触れたのだろう。ゆっくりと目を閉じると、彼女の声が聞こえた。
『すまない、悠。行かなきゃいけなくて。本当にごめん』
やはり彩は私を見守ってくれていたのだ。その暖かい気持ちに、私は涙を溢れさせていた。
『でも安心して。約束は守るから。悠の世界は、きっと守り抜くよ』
はっきりとした言葉に、私は頷いた。そうだ、私たちには守らなければならない大切なものがあったのだった。
あれから十三年の月日が流れた。
人類を脅かす脅威は去った。だが、最前線で戦っていた部隊の消息は、未だにようとして知られてはいない。彩の消息もまた……。
後方部隊が観測したデータの解析によると、究極兵器「起動の鍵」の力と、敵の強力な兵器の力が干渉し合い、恒星数十個分のエネルギーに相当する大爆発が起きたらしい。それにより、敵の母星だと推定されていた惑星を含む恒星系が消滅。その際に強力な放射線やプラズマの放出、時空と次元の歪みや亀裂が観測された。それらの影響が地球に到達するまでには、あと数百年は掛かるらしいが。
科学者の話によると、最前線部隊が無事であるとしても、時空の歪みに飲みこまれて別の宇宙空間に飛ばされたか、爆発のエネルギーの放出に巻き込まれて、宇宙の果てまで吹き飛ばされている可能性があるとの事。部隊が帰還する可能性、それは絶望的なほどの、極めてわずかな可能性……。
でも私は信じている。彩は幼い頃から絶対に約束を守る人間だ。私との約束を彩が破るはずがない。……はずが……ない……。
破壊された街並みは徐々に復興されつつある。まだ薄暗い未明の街には始発列車の汽笛が響き、遠くの地平に夜明けの光がほのかに現れた。
朝もやの中、けたたましい足音とともに、家の戸が勢いよく開かれた。
「ごめんっ、待たせちゃってっ!」
そこには、ひどく汚れてボロボロの衣装をまとった彩が、十三年前と変わらぬ若い姿のまま、満面の笑顔で立っていた。髪は乱れ、その表情には疲れが滲んでいたが、口元には温かな微笑みがあった。
「ただいまっ、悠!」
「おかえりっ、彩!」
私たちは強く抱き合い、ずっとそのまま離れなかった。とめどない涙を流し、無言でただ抱きしめあう二人の心には、十三年分の様々な熱い思いが込められていた。言葉にせずとも互いの心が通じ合い、確実に分かりあえていた。
やがて日は昇り、暖かな光が復興途中の傷だらけの街と、抱きしめあう二人を静かに包みこんでいった。
世界は再び希望に満ちた。そこには、十三年前の彩と私が見た朝日と、まったく同じ光景が広がっていた。
(使用AI:Claude 3 Sonnet)
「やっぱり来ないわけだ」
幼馴染の彩と共に、交わした約束を思い出していた。私たちの道はここで分かれたはずだった。
学生時代から注がれた努力と、夢を諦めることなく前に進む強い意思。それらは全て、遺跡から見つかった
「今頃、地球の命運を左右する戦いに身を投じているんでしょうね」
私は込み上げる思いをこらえながらつぶやいた。古の文明の力に選ばれ、その力を身に宿した彩が、遥か宇宙の彼方で、今や人類最後の希望となって戦っているのだ。
私の目に始発列車のライトが映る。そう、あの日も朝日が昇るとき、わたしは彩をいつものこの駅で見送っていた。
「汚い格好のまま会いに来てごめんね、悠」
あの時彩はそう言った。薄汚れた防護服に身を包み、私をすまなそうに見つめていた。
「大丈夫、いつも汚い格好をしているあんたには、慣れているから」
私はそう返し、彩の頭を撫でた。するとなぜか彩は俯き、もじもじしながら頬を紅潮させてつぶやく。
「な、なによ。なんだかあんた、すごいテクニシャンだね」
「うふ、それはいつものことでしょ。じゃあ、こんなのはどう?」
「あ、それは!」
私たちはたわいもない会話で笑い合った。侵略により、夢半ばで叶わなかった日常がそこにあり、それは二人にとっての心の拠り所となっていた。
彩はそのまま、黒光りする軍用装甲列車に乗り込んでいく。私は最終決戦に臨む彩の背中をしっかりと見送った。そして私はこの街で最期の日々を過ごすことになる。彼女とはある約束をした。どちらかが生きて帰って来れたとしたら……。
「ああ、そうだった」
無数の爆撃音と共に、私の意識は現実に引き戻された。
遥か宇宙の果てで、部隊の一人として戦う彩。そして地上に残され戦う私。
今この瞬間、彩は戦いの最中なのだろうか。あの時の始発列車を思い出しながら、私は我が思いに心を馳せていたのかもしれない。
爆撃音が止んだ後、私は立ち上がり、銃を構えて塹壕から外に出た。雨に打たれながら外を見渡す。凍てつく冷気が肌を締め付ける。
しかしその時、遠くの空が一瞬の光を放った。あれは太古の文明の記録が伝える究極兵器「起動の鍵」の光だ。
「彩、やったのねっ!」
ほっと安堵の溜息をついた私に、別の気づきがあった。私の目から何かが溢れ出ているのだ。
見れば、宝石の涙が頬をしとどに伝っていく。
きっと神秘の力を持つ彩の気持ちが私の心に届き、それに触れたのだろう。ゆっくりと目を閉じると、彼女の声が聞こえた。
『すまない、悠。行かなきゃいけなくて。本当にごめん』
やはり彩は私を見守ってくれていたのだ。その暖かい気持ちに、私は涙を溢れさせていた。
『でも安心して。約束は守るから。悠の世界は、きっと守り抜くよ』
はっきりとした言葉に、私は頷いた。そうだ、私たちには守らなければならない大切なものがあったのだった。
あれから十三年の月日が流れた。
人類を脅かす脅威は去った。だが、最前線で戦っていた部隊の消息は、未だにようとして知られてはいない。彩の消息もまた……。
後方部隊が観測したデータの解析によると、究極兵器「起動の鍵」の力と、敵の強力な兵器の力が干渉し合い、恒星数十個分のエネルギーに相当する大爆発が起きたらしい。それにより、敵の母星だと推定されていた惑星を含む恒星系が消滅。その際に強力な放射線やプラズマの放出、時空と次元の歪みや亀裂が観測された。それらの影響が地球に到達するまでには、あと数百年は掛かるらしいが。
科学者の話によると、最前線部隊が無事であるとしても、時空の歪みに飲みこまれて別の宇宙空間に飛ばされたか、爆発のエネルギーの放出に巻き込まれて、宇宙の果てまで吹き飛ばされている可能性があるとの事。部隊が帰還する可能性、それは絶望的なほどの、極めてわずかな可能性……。
でも私は信じている。彩は幼い頃から絶対に約束を守る人間だ。私との約束を彩が破るはずがない。……はずが……ない……。
破壊された街並みは徐々に復興されつつある。まだ薄暗い未明の街には始発列車の汽笛が響き、遠くの地平に夜明けの光がほのかに現れた。
朝もやの中、けたたましい足音とともに、家の戸が勢いよく開かれた。
「ごめんっ、待たせちゃってっ!」
そこには、ひどく汚れてボロボロの衣装をまとった彩が、十三年前と変わらぬ若い姿のまま、満面の笑顔で立っていた。髪は乱れ、その表情には疲れが滲んでいたが、口元には温かな微笑みがあった。
「ただいまっ、悠!」
「おかえりっ、彩!」
私たちは強く抱き合い、ずっとそのまま離れなかった。とめどない涙を流し、無言でただ抱きしめあう二人の心には、十三年分の様々な熱い思いが込められていた。言葉にせずとも互いの心が通じ合い、確実に分かりあえていた。
やがて日は昇り、暖かな光が復興途中の傷だらけの街と、抱きしめあう二人を静かに包みこんでいった。
世界は再び希望に満ちた。そこには、十三年前の彩と私が見た朝日と、まったく同じ光景が広がっていた。
(使用AI:Claude 3 Sonnet)