フェリーチェの朝

文字数 2,617文字

 東の空が徐々に赤く染まり始める。まだ辺りは薄明の世界だが、すぐにでも朝日が顔を覗かせそうな予感があった。フェリーチェは布団の中からそのそぶりを感じた。この時間が近づくとつい浅い眠りになってしまう。

 ピリリリリリリ――。
 突如、耳障りな目覚まし時計の合図が部屋に鳴り響いた。フェリーチェはばたばたと布団の中でもがき、とっさに時計に手を伸ばした。しかし視界が暗いうちは時計の位置が分からない。あれよあれよという間に、部屋中に時計の音が散乱した。

「もう、うるさいわね」
 フェリーチェは文句を言いながらも、時計を探し続けた。ふわりと優雅な香りがただよう。布団の隅っこで丸まって眠っていたフェリチオ――フェリーチェの飼い猫が、時計の音に驚いて目を覚ましたのだ。

「フェリチオ、おはよう」

 フェリーチェは愛でるように猫の頭をなでた。フェリチオはそれに応えるかのように、くれぐれもなく背中を丸めた。この猫は昔、路地裏で保護したときからすでにフェリーチェの術中にかかっていたのかもしれない。

 ピリリリリリリ――。
 鳴り響く時計に焦りが走る。フェリーチェはますます必死に布団をめくり、やっと時計を見つけた。スリムなボディに洗練された佇まいの時計で、止め方がわずかに分からなくなっていた。

「待ってて、今とめるから」
 フェリーチェは慌てずに静かな声で時計に話しかけた。ひと呼吸おいて、スイッチを入念に探り当て、遂に時計の音を止めることに成功した。フェリチオは時計の音が止まったのを確認すると、すぐさま眠り始めた。

 フェリーチェは薄明の中、枕を背に当てて座り直した。そうするとベッドサイドのナイトテーブルに、昨日の夜、暖炉で作ったホットチョコレートが残っているのに気づいた。そっと手を伸ばし、まだ湯気を立てているカップを手にした。

「ふふ、いつの間に冷めるかしら」
 フェリーチェはくつろぎの溜息をつき、チョコレートの香りに酔いしれた。淹れたてのチョコレートの味は、希代の風味がある。口に含んだだけで、体の隅々までぽかぽかと温められるようだ。

 フェリーチェは猫に手を伸ばし、ぬくもりを確かめる。屈強な男性にも負けない体温で、フェリチオの呼吸はこまめに動いている。寝顔がたいそう満足げだ。チョコレートの一口と共に、猫の姿を飲み込んだ。

 ベッドサイドには大判の本が一冊置かれていた。昨夜フェリーチェは明け方までそれを読み耽っていたのだ。本を開くと、年季の入った紙の質感と、いやに濃厚な活字の佇まい。一行一行を味わうように書かれた文章に、まだ朝日の射す前から心が酔いしれる思いだった。

 ぽかぽかとした焚き火の燻り、
 新鮮な芳香を放つ本、
 なつかしい猫のにごり
 ――朝の始まりはかくの如く。

 心あつくしての日々が今日も始まろうとしていた。

 フェリーチェの部屋は、薄明の中にまだ朝日が差し込むよりずっと前から、懐かしい情緒に満ちている。燃え盛る暖炉と薫り高き書籍の佇まい、そして猫にすら優しく慈しまれるかのようだった。

 窓の外は森に隣接している。朝の冷気が吹き抜けてくる。だがフェリーチェの部屋はもうとっくに芳香の世界に包まれている。その香りの入口がチョコレートの香りというわけだ。

 ゆったりとした時が過ぎていく中で、やがてチョコレートの湯気が枯れはじめた。それでも空気は香り高く、部屋の隅々に漂っている。その頃になると、フェリチオはすっかり目を覚まし、フェリーチェの膝の上に乗って来る。

「おはよう、フェリチオ」
 フェリーチェはまた愛でるように、猫の頭をなでた。フェリチオは心地よさそうに目を閉じ、くれぐれもなく喉を鳴らす。この儀式には、言葉は無用なのだ。互いの思いが通じ合うだけで十分なのだ。

 チョコレートの味は素晴らしく、本の文章は人生を問うていた。そんな至福の時を味わいながら、フェリーチェは部屋の外を見渡した。朝日があたりを照らし始めている。もうすぐ太陽が顔を出すのだろう。

「今日も素敵な一日になりそうね」
 フェリーチェはそうつぶやいた。明るい日差しが射しこむ頃には、フェリチオと過ごす朝の時間も終わりとなる。しかしこの芳香の時は、フェリーチェの人生の源泉なのだ。

 この部屋から出れば、様々な用事や世間の煩わしさが待っている。それでもこの香り高い時間さえあれば、一日をしっかりと生き抜くことができる。チョコレートの残り香に酔いしれながら本を読み、猫と戯れる。そんな至高の朝さえ味わえれば、人生に満足できるに決まっている。

 フェリーチェはそんな思いを胸に秘め、心なしか顔を綻ばせた。目の前に広がる朝の始まりが、何より愛おしく思えた。人生は豊かな思い出に満ちている。今を大切にすれば、それがさらに豊かになることは間違いないのだ。

 時折フェリチオが鳴き声を上げ、チョコレートの香りが部屋に舞う。本を味わうように読み進める。まるで永遠に続くかのように思えるこの朝の時間は、昼にはすっかり過ぎ去ってしまうに違いない。だがそれでも、フェリーチェの心の中には、この朝の情緒が決して失せることのない秘宝となって永遠に輝き続ける。

 その揺るぎない確信があるからこそ、フェリーチェはこの時間を心の底から愛でることができるのだ。

 ゆったりとした時が過ぎ、さらに時間が経っても、この部屋から漂う優雅な情緒は変わらない。フェリーチェはそんな空間を、心行くまで堪能した。この朝の余韻がいつまでも続けばいいのにと願った。


(使用AI:Claude 3 Sonnet)

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【感想】
 猫と暮らす本好きの若い女性の朝のひと時の風景。なんかいいな~。普段の日常生活の風景も、どんな感じなのか読んでみたい。

 あまりなじみのない言葉を使った表現の箇所は、これで合っているのか、それともおかしいのかが、自分にはさっぱり分かりません。(文学作品はあまり読んだ事がないので)
 それと昨日の夜に作ったホットチョコレートが、湯気を立てるほどに温かいままなのはなぜなんだろう? 電気式か蓄熱式の冷めないカップなのか、冷めない魔法のようなものがかかったカップなのか。……あ、明け方まで本を読んでいたとあるので、ホットチョコレートが冷めない時間だけ、ほんのちょっとの時間、明かりを消して寝ていたってことなのか? この物語の世界設定はいったいどういう風なんだろう。


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