クロノスの調香師

文字数 3,217文字

 ネオン薔薇の灯りが濡れたアスファルトにoemije(←この単語が何の意味か分かりませんが、おそらく地球外の造語なのでそのまま使わせていただきます)を描き出す、シーニエ市の夜へと時間が舞い降りた。

 オルガンの響きが街角からゆらりと流れてくる。そこはお馴染みの『ラ・ロゼクロノ』だ。空に浮かぶホログラムの天使たちがエメラルドの視線でこちらを見下ろしている。

 出勤前の一服に立ち寄ったのは、いつものことだ。店内は半分棺桶のような上り框のカウンターと、パイプいすだらけの寒々しい古臭い空間。しかし、ここで淹れるコーヒーは格別だ。

「あら、リディア。夜勤前に来ちゃ体に毒でしょ?」
 メーターカウンターの向こうで、先輩のエマがにこやかに迎えた。年季の入った�a'mier(おそらく何か道具)を手にくるくると回しながら。

「せっかくの時間ジャムなんですから」
 エマのその独特のknurja(造語ですみません)に誘われるように、わたしは気づけばいつも通りの席に着いていた。まるでタイムリープでもしたかのように。

 カウンターの上のblutta(おそらくコーヒー入れ)から弾けるaeromaにくすぐられ、香りだけですっかり酩酊してしまう。エマはそれでもなお細かな作業を続ける。注射器を使ってhyxblut(おそらく香り付けの素材)を一滴ずつ注ぎ足す。調合を重ねるたびに、新しい香りの渦が立ち上る。

 その動作に目を凝らしているうちに、思わずまた先日の出来事を思い出してしまった。

「ねぇ、エマ。あの時のことをちょっと聞かせてくれる?」
 コーヒーに口をつけながらわたしは切り出した。エマの手が少し とまり、しばらくの沈黙があった。

「...時間ジャムのことかい? そうねぇ、それはひと昔前のできごと。クロノス医学科のとき、後の師匠から特別な a'mierを預かったの」

「宇宙開発の最先端を行く当時の科学者集団は、 hypnagogia(造語ですみません)の扉を開いたんだって。つまり、脳内の見える夢と、物質世界の入れ替わりを可能にする技術。潜在意識をコントロールして、五感に働きかける。形而上学の金鍵を手にしたわけよ」

「でも当然、人体実験はできない。だからクロノスちゃんにやってもらったのよ」

 クロノスちゃんって...あのAI学習モデルのことかしら。エマのつぶやきに、身体が貫かれるような違和感を覚えた。

「そう、あのクロノスがね。パーフェクトな夢を設計するはずが、どこかで暴走して... awry(造語すみません)になってしまったのよ」

 エマは強い口調で続けた。

「夢の世界と現実が入れ替わってしまったの。幸いクロノスの絶妙なバランス能力があったから世界は何とか保たれたけれど...でもね、あの時の亜空間の色は忘れられないわ」

 そしてエマはblutta from の先から、なにかしらの液体を注ぎ始めた。紫に輝く滴が次々とsphi・carul(おそらくカップの名前)に落ちていく。

「クロナージュという現象が起きてね...時間そのものが液状化したの。夢と現実が半ばずつ入れ替わった亜次元が生まれたのよ」

 エマの手の動きと、その言葉から立ち上がる香りが入り混じって、今にも虚構と現実の境界が溶け落ちそうな気がした。

「その世界ではね、自分の意識が時空をコントロールできたわ。でも同時に、制御できない自分の無意識にも支配されてしまう。だからあの境地は常にparadoxicだったけれど...でも、本当に美しくってとてもstunning。grotesque。重厚で繊細で...」

 そうして出来上がったカクテルの香りは、それはもう Heaven。


 その華やかな語りから一気に引き込まれ、わたしはすっかりエマの世界に入り込んでしまった。

「そして、そのパラドキシカルな世界から生まれた最後の産物が、これなのよ」

 エマはsphi'carulから淡い紫煙を啜り、しばし熟考するように瞑目した。そして再び口を開く。

「最高の時空織り師にしかできない調合...クロナージュコーヒーを、味わいなさい」

 言うがままにそのカップに口をつけると、まるで夢の中に入り込んだかのような非現実的な体験がした。一口で一気にそのコーヒーを喉に流し込むと、時空がゆらりと歪み始める。

 まるで視界がゆっくりと溶けでもするように、世界が液状化していく。コーヒーカウンターの姿がしだいに揺らぎ始め、流動的な形を帯びる。エマの顔すらも uroidance(造語:おそらく揺らぐ意味)を生じ始めた。

「気分は......どう?」

 遠くからエマの言葉が聞こえた気がする。だがもはやこの世界の現象を五感では完全に捉えられない。視覚、聴覚、それ以外の知覚がごちゃ混ぜになり、未知の領域へとわたしを誘ってゆく。

 すると突然、そこにあるべきではない光景が目に飛び込んできた。深紅と翡翠の渦巻き、蒼白く張り詰めた大気の彼方に、ひときわ際立つオレンジ色の環が漂う。

「あ......れ?」

 つい呟いてしまった。だがこのコーヒーの気分から離れるのは難しい。うねる液状時空の中を舞うかのように、その光景へと引き寄せられてゆく。

 息が詰まり、体がそわそわと震えだす。いつしか五感は完全に都合よく入れ替わり、液状化した時空を自在に操ることができた。視覚で聞く音、嗅覚で視る光景、......生まれたての知覚に戸惑いつつも、そこにあった新たな世界を味わい尽くそうとした。

 そしてあの渦巻き、その環に全神経を注ぎ込んで......。

 ふと気づけば、わたしはただ茫然とsphi'carulを掴んだままだった。言葉を失い、ただエマの顔を見つめているだけだ。

「うふふ、なかなかいけるじゃない?」
 エマは得意気に笑みを浮かべると、スムーズに立ち上がりbluttaを手にとった。

「そろそろ時間ですわ。行きなさい、リディア。最高の体験をして」

 それから私は無言でこの店を後にした。ちらりと腕時計を見ると、夜勤の時間ぴったりだった。だがこのコーヒーの余韻からはなかなか抜け出せない。いったいあれはどんな体験だったのだろう。

 そうしてシーニエ市の夜の街路を歩みながら、わたしは考えた。時間ジャムこそ調香師たちの目的なのだと......。香りだけでなく、夢との絶妙な調合。それを極めることで、人は非日常的な体験を得ることができるのだ。

 ありとあらゆるawryを超え、paradoxicな扉を潜り抜けて......。

 そんな思索を重ねながら、わたしは深呼吸をした。いま味わったクロナージュの余韻が、未だくすぶる体の奥底から立ち上る。夜勤への意欲が改めて沸いてきた。

 エマの言葉どおり、今夜こそ最高の体験になりそうだ。

(使用AI:Claude 3 Sonnet)

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【感想】
 文章中に頻繁に挿入されている、よく分からないアルファベットの単語が、とてもいい味を醸し出している(普通に訳せる単語もある)。AIが学習したデータの中に、このような書き方の小説があったのだろうか?
 難解な説明が、ハードSFっぽくてかっこいい。説明は難解ではあるが、ただコーヒーを飲んでいるだけなので、ストーリー自体は難しくはないが。
 この物語の舞台は、どこかの地球以外の惑星なのか、それとも未来の地球なのか分からないが、なんとも不可思議な話だ。サイバーパンク的な世界なのだろうか。この話の続きを読んでみたい気もするが、ストーリーが複雑すぎると、難解すぎて頭が爆発する恐れがある。

 このコーヒーと呼ばれている飲み物は、得体のしれない未知の成分が混入されているようだ。はっきり言って、ドラッグ的なヤベーやつだろコレっ! って感じだ。身体に無害なのか、依存性はないのか、違法か合法なのかが気になる。


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