さまよえる子馬の惑星
文字数 3,527文字
私は地球から遥か遠くの、まるで幻のような惑星を旅していた。この惑星には地球の記憶が移転されているらしく、私はたびたびどこか懐かしい風景に出くわす。しかし同時に、常識を覆すような不可思議な現象にも遭遇するのだ。
例えばあの時の出来事だ。透き通るような朝靄の中を歩いていると、遠くで子馬の鳴き声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に、私は無意識のうちにその方角へと足を向けていた。
すると視界の中に、淡い草色の子馬の姿があった。一頭で、ちょこんと佇んでいるところを見ると、道に迷ったのだろうと思われた。
「ひとりぼっちなのかい?」
私は声をかけてみた。すると思わぬ返事が返ってきた。
「わ、わたくしめは、うまく話せず申し訳ありません。馬だけに」
子馬が人語をしゃべったのだ!
「な、なんと!?」
「ははは、びっくりなさったでしょう。実はわたくしめ、ここの住人なのですの」
人語を操る子馬に、一瞬信じられない思いがした。が、それ以上に子馬の照れた様子が可笑しくてたまらなかった。
「ふふふ、そんなに照れなくてもいいのに」
「こ、こほん! あ、あの、わたくしめはただの迷子ですのです」
照れくさそうに子馬は言う。私の心はすっかりこの子馬の虜になってしまった。
「ならば案内しよう。どこか目的地はあるのかい?」
「えぇ、わたくしめの小屋がありましてそ」
子馬は私に小屋への道を教えてくれた。一方で私の方も、この奇妙な世界について彼に尋ねていた。すると半ば懐かしく思えるような風景が、時折見え隠れしていった。
「人間さまがた、わたくしらを可愛がってくれたあの日々を覚えていらっしゃるのですのですか」
「その、思い出がどこかにありますです。でも同時に、まるで夢のように、うまく捉えられないのでそ」
子馬は人懐っこく話しかけてくる。それでいて、少しだけ照れくさそうな様子も見せる。
「ふふ、いつの日かわたくしめの小屋においでくださいな。わたくしめも照れくさくてあまり喋れませんのですのですけれど」
「ありがとう。そうさせてもらいますとも」
私たちは歩みを止め、目と目を合わせた。互いの中に懐かしいものを見出そうとでもするかのように。
人間と動物、それとも何か別のものなのか。その狭間にいるふたりの境遇から、私は不思議な寄り添いを感じた。
しばらくすると、やがて小屋が見えてきた。子馬は私に軽く会釈し、小屋の中へと駆け込んでいった。振り返りざまに言った言葉が、微かに私の心を震わせた。
「この世界を忘れかけていた日々が、いま少し思い出せそうですのですわ」
私はしばし佇んで、その場を後にした。まるで何かを見失いかけていたような気がした。だがそれと同時に、今見つけ出したかけがえのないものがあると感じていた。
もしかしたら、この不可思議な世界そのものが、かつての記憶を静かに宿しているのかもしれない。人間の思い出を乗せた、さまよえる子馬の惑星なのかもしれない。
その日からしばらく経った頃、私は再び小屋を訪ねた。すると子馬は人懐っこく出迎えてくれた。
「おひさしぶりのようですのですわね。ほんとに久しぶりですですわ」
照れながらも嬉しそうに話しかけられ、私も思わず笑顔になってしまった。そして二人でまた、この不思議な世界の散策へと出かけていった。
人間の記憶をたどりながら、子馬は懐かしいエピソードを次々と口にしていった。私もまた、聞けば聞くほど、どこか朧気な思い出が蘇ってくるのを感じた。
私たちは何かを無くし、でもまた何かを得ていた。それは、たとえ不確かなものであっても、確かに大切なものだった。言葉にならない、でも温かく込み上げる心の在り処。
時おり、子馬は照れくさそうに視線を逸らしながら話すのだが、その度に、私の眼には忘れがたい情景が浮かぶようであった。
私たちはそうして歩き続け、いつしか見慣れない惑星の景色の中を歩いていた。それでもなお、懐かしさは募るばかりだった。
ふと私は立ち止まり、ただ空を見上げていた。すると隣で子馬が私の方を見ていて、それは一瞬ですれ違う視線となった。そのとき、まるで夢の中のような出来事が起こった。
「!?」
子馬の姿が、ゆっくりと歪んでいく。そのままいつの間にか、人間の姿となっていた。赤面する少女の姿に。
「あ、あの! ごめんなさいっ」
ぎこちなくそう言って、少女は俯き加減になる。私は一瞬動けなくなった。
「な、なんでしたっけ。その、こんな感じで」
慌てて切り出す私に対し、少女は恥じらいながら視線を合わせた。
「うふ、おじさまは、とっても純朴な心優しい方だったんですね。とても懐かしい」
私は、ああ、とあることに気づいた。この子は、かつて私が愛した、人間社会の思い出の中の一人なのだろう。そして、この惑星はかつての地球を映し出しているのだ。
「そうだったのか。私は思い出せていなかったが」
「でも、わたし達は決して忘れたりなんかしていませんでした」
少女は真っ赤な頬を手で覆いながら、そう言った。私は目を細め、温かい心地よさに包まれた。
あの頃の暮らしぶりが、いとおしく思い出されてきた。動物たちとの日々、そして人々との日々が。この惑星にさまよう思い出は、かつて確かに在ったものだったのだ。
私は静かにその場を後にした。だが気づけば、手元に子馬のひとすじが残されていた。今この瞬間にあの少女の面影が留めたにちがいない。
私が気づいたのは、ただ一本の赤い髪の毛が手の中に残されていたことだった。あの少女、いや子馬の姿から落ちたものだろう。私はそれを大事に掌に乗せ、しばし眺めていた。
するとその一本の髪が、徐々に輝きを増していく。私はただ見とれるしかなかった。やがてそれは完全に発光し、小さな星のような存在となった。
「なんという...」
ひょっとすると、この惑星に残された記憶の一部なのかもしれない。私が思い出せなかった記憶を、この惑星が私に教えてくれようとしているのだ。
そう考えるうちに、星のような発光体が次第にその姿を変えていった。しばらくすると、小さな子供の姿へと変容したのである。
私の前に立つのは、愛らしい幼子の姿だった。見覚えがあるような、ないような。ぼんやりとしか思い出せないのが残念だった。
「おじちゃん、おじちゃんってば、何を見つめているの?」
子供は私に問うた。その声は聞き覚えがあるようで、胸が熱くなる思いがした。
「わたしを、覚えている?」
「えっ?」
子供の問いかけに、私はひどく戸惑ってしまった。しかし同時に、何か大切なものを思い出させようとしているのだと感じた。
ここはあの頃の地球を映した惑星なのだ。ならばこの子供はきっと、私が昔かわいがっていた子供の姿なのだろう。
「確かに、わたしは覚えている」
「ほんと? じゃあ、おじちゃん! おじちゃんとわたしの秘密の言葉を言ってみて!」
秘密の言葉? なんだか懐かしい響きだ。私は思い出そうと精一杯に努力した。
そしてふと、どこからともなく、ひらめきのようなものが頭に浮かんだ。
「りんご...?」
「やったぁ! おじちゃん覚えていたんだ!」
子供は大喜びで走り寄ってきた。私は思わず笑顔になり、その小さな体を抱き上げた。
「ふふふ、りんごが好きだったんだね。確か」
「うん! おじちゃんはいつも、わたしにりんごの色の照れた顔を見せてくれたよ」
その言葉に、私は何かを思い出した。あの頃の私は、子供たちに会うとたびたび照れくさそうにしていたことを。
「そうだったのか。確かにそうだった」
私は嬉しくなり、子供を高く持ち上げた。子供も大喜びで笑った。
「わたしといつも一緒にいてくれて、本当にありがとう。おじちゃん」
そういって子供は私の頬に軽くキスをした。どっと照れくさい気持ちが込み上げてきた。私も思わず照れくさそうな笑みを浮かべた。
「あはは、りんごの照れ顔だね」
「そうだね。りんごの照れ顔だよ」
二人は笑い合った。そしてそのまま、私と子供は手をつないで歩き出した。この惑星の不思議な風景の中を。
私の記憶が確実に蘇っていく。そしてその度に、このささやかな温かな日々の喜びを思い出す。
きっとこの惑星は、私たちが忘れかけていた大切なものを、このように可視化し続けているのだろう。
あの頃の日々は、決して取り戻せないものではなかった。この惑星に映し出される限り、私たちの愛しい思い出は、いつまでも生き続けるのだ。
私はそうしみじみと感じた。そして、いつの日か地球に戻れたならば、家族や友人に、また子供たちに、りんごの照れ顔を見せてあげようと心に決めた。
（使用AI：Claude 3 Sonnet）
例えばあの時の出来事だ。透き通るような朝靄の中を歩いていると、遠くで子馬の鳴き声が聞こえてきた。聞き覚えのある声に、私は無意識のうちにその方角へと足を向けていた。
すると視界の中に、淡い草色の子馬の姿があった。一頭で、ちょこんと佇んでいるところを見ると、道に迷ったのだろうと思われた。
「ひとりぼっちなのかい?」
私は声をかけてみた。すると思わぬ返事が返ってきた。
「わ、わたくしめは、うまく話せず申し訳ありません。馬だけに」
子馬が人語をしゃべったのだ!
「な、なんと!?」
「ははは、びっくりなさったでしょう。実はわたくしめ、ここの住人なのですの」
人語を操る子馬に、一瞬信じられない思いがした。が、それ以上に子馬の照れた様子が可笑しくてたまらなかった。
「ふふふ、そんなに照れなくてもいいのに」
「こ、こほん! あ、あの、わたくしめはただの迷子ですのです」
照れくさそうに子馬は言う。私の心はすっかりこの子馬の虜になってしまった。
「ならば案内しよう。どこか目的地はあるのかい?」
「えぇ、わたくしめの小屋がありましてそ」
子馬は私に小屋への道を教えてくれた。一方で私の方も、この奇妙な世界について彼に尋ねていた。すると半ば懐かしく思えるような風景が、時折見え隠れしていった。
「人間さまがた、わたくしらを可愛がってくれたあの日々を覚えていらっしゃるのですのですか」
「その、思い出がどこかにありますです。でも同時に、まるで夢のように、うまく捉えられないのでそ」
子馬は人懐っこく話しかけてくる。それでいて、少しだけ照れくさそうな様子も見せる。
「ふふ、いつの日かわたくしめの小屋においでくださいな。わたくしめも照れくさくてあまり喋れませんのですのですけれど」
「ありがとう。そうさせてもらいますとも」
私たちは歩みを止め、目と目を合わせた。互いの中に懐かしいものを見出そうとでもするかのように。
人間と動物、それとも何か別のものなのか。その狭間にいるふたりの境遇から、私は不思議な寄り添いを感じた。
しばらくすると、やがて小屋が見えてきた。子馬は私に軽く会釈し、小屋の中へと駆け込んでいった。振り返りざまに言った言葉が、微かに私の心を震わせた。
「この世界を忘れかけていた日々が、いま少し思い出せそうですのですわ」
私はしばし佇んで、その場を後にした。まるで何かを見失いかけていたような気がした。だがそれと同時に、今見つけ出したかけがえのないものがあると感じていた。
もしかしたら、この不可思議な世界そのものが、かつての記憶を静かに宿しているのかもしれない。人間の思い出を乗せた、さまよえる子馬の惑星なのかもしれない。
その日からしばらく経った頃、私は再び小屋を訪ねた。すると子馬は人懐っこく出迎えてくれた。
「おひさしぶりのようですのですわね。ほんとに久しぶりですですわ」
照れながらも嬉しそうに話しかけられ、私も思わず笑顔になってしまった。そして二人でまた、この不思議な世界の散策へと出かけていった。
人間の記憶をたどりながら、子馬は懐かしいエピソードを次々と口にしていった。私もまた、聞けば聞くほど、どこか朧気な思い出が蘇ってくるのを感じた。
私たちは何かを無くし、でもまた何かを得ていた。それは、たとえ不確かなものであっても、確かに大切なものだった。言葉にならない、でも温かく込み上げる心の在り処。
時おり、子馬は照れくさそうに視線を逸らしながら話すのだが、その度に、私の眼には忘れがたい情景が浮かぶようであった。
私たちはそうして歩き続け、いつしか見慣れない惑星の景色の中を歩いていた。それでもなお、懐かしさは募るばかりだった。
ふと私は立ち止まり、ただ空を見上げていた。すると隣で子馬が私の方を見ていて、それは一瞬ですれ違う視線となった。そのとき、まるで夢の中のような出来事が起こった。
「!?」
子馬の姿が、ゆっくりと歪んでいく。そのままいつの間にか、人間の姿となっていた。赤面する少女の姿に。
「あ、あの! ごめんなさいっ」
ぎこちなくそう言って、少女は俯き加減になる。私は一瞬動けなくなった。
「な、なんでしたっけ。その、こんな感じで」
慌てて切り出す私に対し、少女は恥じらいながら視線を合わせた。
「うふ、おじさまは、とっても純朴な心優しい方だったんですね。とても懐かしい」
私は、ああ、とあることに気づいた。この子は、かつて私が愛した、人間社会の思い出の中の一人なのだろう。そして、この惑星はかつての地球を映し出しているのだ。
「そうだったのか。私は思い出せていなかったが」
「でも、わたし達は決して忘れたりなんかしていませんでした」
少女は真っ赤な頬を手で覆いながら、そう言った。私は目を細め、温かい心地よさに包まれた。
あの頃の暮らしぶりが、いとおしく思い出されてきた。動物たちとの日々、そして人々との日々が。この惑星にさまよう思い出は、かつて確かに在ったものだったのだ。
私は静かにその場を後にした。だが気づけば、手元に子馬のひとすじが残されていた。今この瞬間にあの少女の面影が留めたにちがいない。
私が気づいたのは、ただ一本の赤い髪の毛が手の中に残されていたことだった。あの少女、いや子馬の姿から落ちたものだろう。私はそれを大事に掌に乗せ、しばし眺めていた。
するとその一本の髪が、徐々に輝きを増していく。私はただ見とれるしかなかった。やがてそれは完全に発光し、小さな星のような存在となった。
「なんという...」
ひょっとすると、この惑星に残された記憶の一部なのかもしれない。私が思い出せなかった記憶を、この惑星が私に教えてくれようとしているのだ。
そう考えるうちに、星のような発光体が次第にその姿を変えていった。しばらくすると、小さな子供の姿へと変容したのである。
私の前に立つのは、愛らしい幼子の姿だった。見覚えがあるような、ないような。ぼんやりとしか思い出せないのが残念だった。
「おじちゃん、おじちゃんってば、何を見つめているの?」
子供は私に問うた。その声は聞き覚えがあるようで、胸が熱くなる思いがした。
「わたしを、覚えている?」
「えっ?」
子供の問いかけに、私はひどく戸惑ってしまった。しかし同時に、何か大切なものを思い出させようとしているのだと感じた。
ここはあの頃の地球を映した惑星なのだ。ならばこの子供はきっと、私が昔かわいがっていた子供の姿なのだろう。
「確かに、わたしは覚えている」
「ほんと? じゃあ、おじちゃん! おじちゃんとわたしの秘密の言葉を言ってみて!」
秘密の言葉? なんだか懐かしい響きだ。私は思い出そうと精一杯に努力した。
そしてふと、どこからともなく、ひらめきのようなものが頭に浮かんだ。
「りんご...?」
「やったぁ! おじちゃん覚えていたんだ!」
子供は大喜びで走り寄ってきた。私は思わず笑顔になり、その小さな体を抱き上げた。
「ふふふ、りんごが好きだったんだね。確か」
「うん! おじちゃんはいつも、わたしにりんごの色の照れた顔を見せてくれたよ」
その言葉に、私は何かを思い出した。あの頃の私は、子供たちに会うとたびたび照れくさそうにしていたことを。
「そうだったのか。確かにそうだった」
私は嬉しくなり、子供を高く持ち上げた。子供も大喜びで笑った。
「わたしといつも一緒にいてくれて、本当にありがとう。おじちゃん」
そういって子供は私の頬に軽くキスをした。どっと照れくさい気持ちが込み上げてきた。私も思わず照れくさそうな笑みを浮かべた。
「あはは、りんごの照れ顔だね」
「そうだね。りんごの照れ顔だよ」
二人は笑い合った。そしてそのまま、私と子供は手をつないで歩き出した。この惑星の不思議な風景の中を。
私の記憶が確実に蘇っていく。そしてその度に、このささやかな温かな日々の喜びを思い出す。
きっとこの惑星は、私たちが忘れかけていた大切なものを、このように可視化し続けているのだろう。
あの頃の日々は、決して取り戻せないものではなかった。この惑星に映し出される限り、私たちの愛しい思い出は、いつまでも生き続けるのだ。
私はそうしみじみと感じた。そして、いつの日か地球に戻れたならば、家族や友人に、また子供たちに、りんごの照れ顔を見せてあげようと心に決めた。
（使用AI：Claude 3 Sonnet）
