始発の幻影

文字数 1,212文字

 薄暗い駅舎に、一人の男が佇んでいた。男の名はジョン、かつての戦争で英雄として称賛された男だ。彼の顔には、その時に負った深い傷跡が残っていた。それには、戦争の記憶だけではなく、暗い秘密も刻み込まれていた。

 駅舎の時計は、午前4時44分を指している。始発列車が到着するまで、あと6分だ。ジョンは、ホームの端に立ち、ただじっと線路を見つめていた。

「もうすぐだよ、ジョン」

 背後から、懐かしい声が聞こえた。ジョンは振り返り、目を丸くした。そこには、幼馴染のサラが立っていた。サラは、数年前に事故で亡くなったはずだった。

「サラ? 君は…」

「死んだはずでしょ? 私もそう思ってた。でも、ここにいるのよ」

 サラは、ジョンの手を握った。その手は温かく、生者のそれだった。

「私は、始発列車が来る前のこの時間に、行かなければならない場所があるの。ジョン、一緒に来てくれない?」

「列車に乗らずに? どこに行くんだ?」

「わからない。でも、何か大切なことがある気がするの」

 ジョンは、サラの瞳を見つめた。その瞳には、決意の光が宿っていた。

「わかった。一緒に行くよ」

 ジョンは、サラの手を握りしめ、駅舎を出て線路に沿って歩き出した。

「ジョン、ありがとう」

 サラは、ジョンの顔を見上げ、優しく微笑んだ。その笑顔は、かつてのサラと全く同じだった。

 二人は暗い線路を歩き続け、やがてトンネルにたどり着いた。そしてそのままトンネルに入り、奥へと進む。トンネルの先には、かすかな光が見えている。

「もうすぐよ」

 サラは、ジョンの手をさらに強く握った。

 二人は、光に向かって歩き出した。そして、ついにトンネルの出口にたどり着いた。

 目の前に広がる光景に、ジョンは息を呑んだ。そこには、見たこともない美しい景色が広がっていた。

 青空、緑の木々、白い砂浜、そしてどこまでも続く青い海。

「ここは…?」

「わからない。でも、ここが私の帰る場所なのかもしれない」

 サラは、ジョンの手を離し、ゆっくりと歩き出した。

「ジョン、ありがとう。さようなら。…永遠に愛してる」

 サラは振り返ることなく、光の中へと消えていった。

 ジョンは、サラの消えた場所を呆然と見つめていた。

 しばらくそうしていた彼は、やがて(きびす)を返し、元来た道へとゆっくりと戻り始めた。

 サラが、どこへ消えてしまったのかは分からない。

 ただ、『ここは私の帰る場所なのかもしれない』と言った、サラの言葉が心に響いていた。

「だが、ここはまだ俺の来るべき場所ではないはずだ」

 彼は、戦争の記憶も、暗い秘密もすべて忘れてしまいたいと願った。

 彼の心には、サラとの懐かしい思い出の日々だけが残ればいいと。

 ジョンはそのまま歩き続け、到着していた始発列車に乗り込んだ。

 そして、彼はサラとの思い出を大切に胸に(いだ)きながら、遥か遠くの地へと旅立った。

 始発の幻影を追いかけて。

 光に向かって。

 
(使用AI:Gemini Pro 1.5)


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