第53話

文字数 526文字


 カズキはコンクール本戦チャレンジの決意をしてから、以前のギター講師に連絡をとっていた。子供好きの優しい矢部先生。
 ただし引っ越ししてしまったので、ここから通うには遠すぎる。代わりに海和家から遠くないところで、いい感じの指導者を紹介してもらえないかと頼んでみた。

「それなら、飯田さんがいるね」
 電話を通しても伝わってくる優しい矢部先生の声にカズキの心は和んだ。
「飯田さんですか?」
「うん、飯田学さん、知ってる?」
「いいえ。すみません」
「すごくうまい人だよ。でも、あの人は今はギターが本業じゃないからね。たぶん生徒もとってないんじゃないかな」
「本業は何をなさっているかたですか?」
「公認会計士だね。自分の会計事務所を開いてるよ。大学も東大じゃなかったかな。ギターは国際コンクールで入賞したし、すごい人だよ」
「先生のお弟子さん?」
「子供のときに教えてあげただけだけど。まあ、多少なり、私が関わった生徒さんで、国際コンクール入賞は二人。その一人だよ」

 矢部先生のお知り合いなら、きっとその方も優しい指導者にちがいない。しかも国内だけでなく、国際コンクールまで実績があるなら、まちがいなく本物の指導者のはず。

 順調ではないですか、とほくそ笑むカズキだったが……
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