第8話

文字数 962文字

 中三になってから、いたずら電話が来た。
 最初は不審に思って無視していたが、あるとき、ふと出てしまい、下品な男の声を聞いてしまった。

 どこで知ったのか、あの男子グループからの着信だった。

 彼らは、すでに大人の反社会勢力と関係を持ち、中学生でありながら麻薬関与で逮捕されていた。
 警察の許可のもとで学校には通い続けていたが、さすがに大人しくする必要があった。そのうさ晴らしとして、別クラスになっていた美琴へちょっかいを出してきたのだった。

 いじめというよりも、すでに犯罪の予感にふるえ、美琴はすぐに親に相談して、携帯の番号を換えてもらった。
 そして教師を頼り、助けを求めた。しかし「学校としてできることには限界がある、場合によっては転校も考えた方がいい」と言われてしまった。
 転校といっても、遠く離れた親戚の家に世話になって? そういう親戚はいないわけではなかったが、今は「ここ」を離れるわけにはいかない。

 美琴は、ある日、学校帰りに彼らに見つかり、声をかけられた。

「おい、ミコじゃね、遊ぼうぜ」
「てか、おまえまた胸おおきくなってね?」
「むしろ太っちゃった?」
「そういうの嫌いじゃないよオレ」
「なんもしねえよ、いいからこいよ」

 美琴は「またこいつらか」と唇をかみ、無視して走った。
 美琴は引きつった顔で、息を切らし走り続け、人通りのある道をたどり、ようやく家の玄関に転がり込んだ。
 ドアの鍵を閉めて、廊下に両手をつくと、気持ちが悪くなり、次の瞬間には止める間もなく嘔吐した。
 吐瀉物で汚れた玄関を見回しても、すでに涙は出なかった。
 心がかわくばかりだった。

 その翌日から、学校に行くのを中止した。
 朝食を再び嘔吐し、病欠ということで学校に伝えたが、かかりつけの医者に行っても悪いところは見つからず、おだやかに精神科受診をすすめられた。

 敗北もいいところ。
 美琴は、精神科で処方された安定剤を握りしめて、ベッドに泣き伏した。
「私に悪いところがあるならあらためます」そんな願いも、希望も、コンバインを前にした小麦のようにザクザクと刈り取られてしまう。無数のバッタのように暴力と破壊が襲ってくる。

 しかし、そんな絶望感も、じきにサッパリと消えた。
 引きこもったわけではない。
 学校へ行く代わりに、兄のいる病院に通うようになったのだ。
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