第63話

文字数 526文字


 その夜、カズキのスマホには多くのメールが届いた。美琴からも、コノハからも、他の仲間からも。
 みなカズキの演奏を好意的にとらえてくれていた。
 
 しかし、答えはわかっていた。

 演奏は、大失敗。

 だってそうだろ、誰も泣いてないじゃないか。

 むしろ眠そうにしていなかったか?

 ただ、来て、座って、聞いて、拍手。そんなの一片の価値もない。

 もっと、もっと、もっと、伝えたいことがあった。

 コノハの暮らす村の人たちが、全員餓死するかもしれない。

 食べたくても食べられない日が続く。

 弱った老人から死んでいく。
 
 それだけではない。

 子供も、女も、男も、極限まで痩せ細り、意識すらあやうくなっていく。

 病もはやり、人の心も汚されていく。

 裏切り、攻撃、はては人肉を口にすることまで。

 最近は食べ物を見ると吐き気がしてくる。

 草や昆虫を食べているような錯覚に陥る。

 美琴の内なる戦いが、カズキにもうつっていた。

 あるいはカズキも、少しずつコノハを直接感じるようになっていた。

 もう、出口は、一つしかない。
 
 本番で良い演奏をすること。

 ただそれだけのために、現実の身体が苦しみで潰されそうになる。

 ……これ、代償、でかすぎね?

 音楽って、いったいなんなんだよ、おい?
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