第27話

文字数 1,051文字

 メールの件……その前に、カズキはまず自分自身のことを考える必要があった。
 個人的重要案件だ。
 彼女の悩みも深そうだが、こちらにだって悩みはある。
 たとえば顔の毛穴から絞ると出てくる小さな白いかたまりと、合わせて発生しはじめた化膿箇所。
 毛穴から脂肪的塊が出てくるのは歳のせいだからしかたがないとして、いわゆるニキビ治療薬というものを、自分も買いにいかねばならない。まずはそこからだ。千里の道も一歩から。
 カズキは土曜の夜、まだあいているドラッグストアに一人で向かった。
 自宅から自転車で数分の距離にあり、明るすぎる外見が目立つごく普通のチェーン店だった。緊張して冷や汗をかきながら皮膚疾患コーナーをさぐり、いくつか並んでいる専用塗り薬をみつけて、手に取って説明書きを比べてみた。効能はともかくとして、どれも予想していたより値段が高かった。予算もないので一番安いものを手に取って、なるべくさりげなくレジに運んだ。安いやつでも何もしないよりはましなはず。
 しかしこんなものを高校生が買いに来ていたら、明らかに自分用だとバレてしまうだろう。いや、あえて家族用だと説明しよう。なんなら、プレゼントということにしてもいい。そういう説明でなんとかのりきろう。そんな思惑が渦巻いていたのに、レジにいた「アルバイト」の札を胸に付けた若い女店員は、カズキの個人情報に関わる質問はなにもせず、ただ「メンバーカード、ありますか?」と聞いてきた。
 カズキは完全に意表を突かれた。ニキビ治療薬はメンバー登録していなくては買えない薬だったのか? ヤバい、ヤバ過ぎる。とりあえずないものはしかたがないので「ないです」とおそるおそる答えると、店員は「1120円になります」とあっさり代金を要求してきた。どうやらメンバーカードは治療薬の販売許可にかかわるものではなく、店のポイントをつけるためだったらしい。
 ……というわけで、なんとかミッションは終了した。
 ニキビ治療薬を買えたのはいい。効くかどうかということも、まあ時の運というものだ。
 問題は、これをもって「リア充とすべきか」ということだった。
 他校の女子と話をするようになって、髪やニキビが気になる。これこそ、世にいうリア充というやつなのではないか、とカズキは自問しないわけにはいられなかった。
 遠くから憧れるだけではなく、手をにぎり、パニックまで引き受ける。
 重い話だったが、カズキには、喜びと希望の方が大きかった。
 で、問題は、あの人へのメールはどうしよう、ということだ……
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