第34話
文字数 1,107文字
そして同日、日曜の午後。
カズキには大切な用事があった。
文芸部校外活動という名の「安藤整形外科医院麻雀大会」だ。
それは日本医学会の威信をかけた真剣勝負であり、尋常ではない高額景品で知らぬものはない……というようなことはとくになく、ただ文芸部の”三人”とタダスケ姉、四人で麻雀をする、というだけのことだった。
それにしても、とカズキは思う。部長が見つけてきた新メンバーを、部室ではなく、麻雀の場で紹介とは、我が文芸部にふさわしすぎて涙が出る。
メールに書いてあったのだ。
《日曜午後2時、うちで麻雀な。新入部員がくるから、よろ》
まあ、新しく入ったこの人も、絶対に文芸と関係ない人だろう、とカズキは確信した。自分のギターのように、高校に部活が存在しない趣味だから、どこにも属さないでいたところを、タダスケに見つかって強引にハンティングされたというパターン。
そうにちがいない。
しかし、なんの人だろう?
麻雀部希望? さすがに高校生でそれはないだろう。では料理研究家とか。それだとマジで楽しみだけど、それも男子高校生ばなれしすぎている。漫画とかアニメは、まあありがちだが、それで文芸部入部というのも平凡すぎる。いっそ、お笑い芸人の卵とか? こちらがぼけたら、必ずつっこんでくれるプロフェッショナル。ありがたい、が、しかしコンビではなく”一人”と聞いているから、お笑いは難しかろう。なんなら、自動車レーサーとか。公道を走らなければ学生でもできるはず。めっちゃ金かかるだろうけれど。いやいや、リアルレーサーはあり得なくても、ゲーマーなら? むしろ女装趣味の方とか? ファッション系志望の生徒ならそれもありえる。
いや、まずい、とカズキはあせった。メイド服を着た男子生徒と友だちになるなんて、想定外。
いや、もっと普通に考えれば?
たとえば、うちの高校にない囲碁。あるいは、写真、鉄道研究、天文、相撲……
いろいろあるじゃないか。
しかし、まあ、さすがに相撲はないわ。と、自ら苦笑したカズキだったが、その相撲こそが、一番正解に近かったとは、このときの彼には想像すらできなかった……
カズキは手土産について「コンビニでポテチでも買っていくか」と最初は軽く考えていたが、曲がりなりにも本物のグラビアアイドルが混ざる場にジャンクフードはいかがなものか、と気がついた。
方向性が見えないままスーパーに入ってみると、フルーツ売り場にカットスイカのパックがあって、これだ、と気がついた。
さっそく買い、店の外に出ると、フタを開けてフライングのつまみ食い。
あ〜、おいしい。
やっぱフルーツはいい!
このまま麻雀も勝ちにいくぜ!