第11話
文字数 479文字
音楽教師は、50歳くらいの豊満な女性で、声楽が専門だった。
美琴は、もともと歌うことが得意ではなかったが、せっかくなので音楽室登校のついでに発声についても教わり始めた。
実際に教わってみると、鍵盤をたたくピアノとちがって、持続する音の表現の豊かな可能性に、美琴はすぐに気づかされた。
ある日、先生のすすめで、ヴィラ=ロボスの「ブラジル風バッハのアリア」をやってみたときが圧巻だった。
美琴がピアノ伴奏を担当し、先生が歌った。
※サンプル演奏
Anu Komsi sings Villa-Lobos' Aria-Cantilena
https://youtu.be/yqfHLqZaSiw
不登校のリアルをまるごとぶち込んでも、牛一頭分のおつりがくるほどの激しい感情の嵐。
同じ曲を、ピアノと歌を交代してやらされた。美琴は無理と断ろうとしたが、先生は強引にピアノを弾き始めた。
声楽経験のない美琴に出せる声などメロディの半分もなかった。
それでも涙でぐしょぐしょになり全力で歌った。
終わると、音楽教師がしっかりした手で、嗚咽する美琴の肩を抱いてくれた。