第35話 スローカーブ
文字数 518文字
玉井一こと愛称タマイチは思い切りのいいスイングを買われて一番バッターに抜擢された。
初球に甘い球がきたら、躊躇なく打っていこうと思って打席に入ったのだが……。
投球練習ではセットポジションから投げていた達森がいきなり投法を変えてきた。胸を張り両腕を頭上におおきく振りかぶるワインドアップにタマイチは警戒心を覚えた。
高々とあげた右足が振り下ろされる。なんともダイナミックなフォームだ。
(スピードボールがくる!)
タマイチが身構える。
ボールがリリースされた。
「?!」
速球に対応しようとして脇をしめたが、ボールがこない。
山なりの曲線を描くスローカーブだ。
そのスローカーブがど真ん中にぽすん、と気の抜けた音をたててキャッチャーミットに納まった。
「なんだ、ありゃ!?」
「マジメにやれ!」
すかさず一塁側応援席からヤジが飛ぶ。
(さもスピードボールがくるように見せかけてタイミングを外す狙いか。それにしても……)
なんか腹が立ってきた。小バカにされたような気がしてトップの位置をもとに戻す。
達森がワインドアップで第二球を投じた。
(何度も騙されるか!)
またもスローカーブだ。
なめんな、とばかりタマイチが始動した。
第36話につづく