第38話 意外な伏兵

文字数 523文字


 6回裏。
 黄金山工業の攻撃。

 キン!

 澄んだ金属音が青空に響いた。
 甘く入ってきた初球ストレートを達森は狙いすましたかのように叩いた。

 打球は軽々とライトの頭上を越えた。
 なぜかライトを守っている神楽坂は打球を追わない。まるで観客であるかのようにその場を動かず、(ボー)と球の行方を目で追うのみだ。

(ふたつ()れる!)

 達森は一塁を蹴った。
 ノーアウトのランナーだ。二塁を()として得点圏に進めば0対0のこの均衡を崩すことができる。

 二塁が目前に迫ってきた。足から滑り込む。
 土煙が舞った。

「アウッ!」

 塁審の右手があがった。
 ベースに到達する前にセカンドにタッチされていた。

「バ、バカな!」

 信じられなかった。
 球を追わなかったライトがどうやって返球できたんだ?!

 思わずライトの神楽坂をみた。
 定位置から二、三歩程度しか動いていない。
 だが、瞬時に理解した。
 神楽坂は打球がどの位置にバウンドしてくるか予想がついていたのだ。
 だから無闇に打球を追わなかった。

 アウトコースしか打てないボンクラバッターだとばかり思っていたが、意外な伏兵だった。

(この男が試合の鍵を握るかもしれない)

 達森は神楽坂に対して警戒心を強めるのであった。



   第39話につづく

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