第62話 敗者のプライド
文字数 816文字
ふらふらと力のない打球が、ネクストバッターズサークルに控えている達森の頭上に舞いあがった。
目をつむった達森の体を藤丸の影が覆い被さり、捕球音がやけにおおきく響いた。
「アウト! ゲームセット!!」
主審が試合終了を告げた。
結局、ノーアウトのランナーは一塁に釘付けになったまま動けずに終わった。
達森に打順がまわってくることはなかったのである。
「ありがとうございましたっ!!」
試合後のあいさつのあとも、黄金山ナインのほとんどが泣いていて互いの検討を讃え合うような雰囲気ではない。
顔をくしゃくしゃにしてその場に崩れて号泣するものもいる。
気持ちはわかるがどこか異常だ。大半は2年生のチームなのであと一年あるはずではないか?
カイトが疑問に思いながらベンチに帰ってくると――
「あいつら今日でおしまいだってよ」
「マジか? なんで?」
「この試合勝てなかったら廃部という取り決めだったらしい」
「あちゃー、おれたちが引導渡しちまったのか」
噂しあうナインのひそひそ声が耳に飛び込んできた。
カイトは走った。
黄金山ベンチへ。
「タツモリ!」
呼びかけられて達森が振り返った。
「Never give up! やめちゃダメだ」
「なんだ、それ? 同情か?」
「同情でも励ましでもない。きみは才能がある。野球をやめる必要はない!」
「そうだよ、
宮田がカイトに賛同した。
「もう一度、校長先生に頼んでみよう!」
その言葉にナイン全員が口々に部の存続を訴える。だが――
「やめろっ!!」
達森が一喝した。
「その条件でおれたちは戦ったんだ。この試合にでることができたんだ」
「でも……」
宮田が頑なな達森の袖をつかんだ。目に涙を浮かべたまま拭おうともしない。
「いいところまでいったんだ。これじゃあ……これじゃあ、あんまりじゃないか」
「おれは負けをごまかさない」
そういうとカイトの目をまっすぐな視線で射貫いた。
「それが敗者のプライドだ」
最終話につづく