第18話 てへぺろ。

文字数 875文字


「勝負?」

 なんのために――と、いいかけてカイトはひとがやってくる気配を感じた。

「その勝負、おれたちも協力するぜ!」

 どこに隠れていたのだろうか、チームメンバーがぞろぞろとグラウンドに姿をあらわした。全員、きっちりとユニフォームに身をつつみ、グラブをはめている。

「さあ、守備につこうぜ」

 赤毛が特徴の遊川慎吾がサードの守備につこうと走り出した。

「必要ない!」

 厳しい口調で滝沢がその足をとめる。
 周りのメンバーが訝しげな目で滝沢をみた。

「おれの球を少しでもかすることができたら、おまえの勝ちだ」

 つまりファールでも負けを認めるということか。

「おまえ、あの球を使う気か?」

 キャプテンの大城智也がいった。
 滝沢はうなずくのみだ。

「しかしよお。いくらなんでもそれは……」

 異を唱えはじめたのは小野健太郎だ。

「大丈夫です。やつは打つことはできません」

 滝沢は2年。大城智也と小野健太郎は3年なのでぞんざいな態度はとらない。この条件で勝負させてほしいと目で訴えている。

「やらせりゃいいじゃん」

 あっけらかんと言い放ったのはこれも3年の神楽坂佑。有坂兵悟のイトコだ。長髪で長身。のほほんとした顔でカイトに視線を向けている。

「タッキーのあの球は初見では打てないよ。いくら元リトルの天才バッターでも。な!」

「はあ……」

 どんな球だろうか? 同意を求められてもこたえようがない。カイトはあいまいな返事をしてしまった。

「よっしゃ決まりだ。はじめよう」

 神楽坂がぽん、と手をたたく。

「えっ?!」

 まだ勝負を受けるとはいってないのにことが進んでしまった。
 藤丸がすでにプロテクターとレガースをつけ、ホームベースの後ろに陣取る。彼はキャッチャーだったのか。

「あ、やってるやってる」

 はしゃいだ声が聞こえ、そちらに目を移すとジャージ姿の加奈がやってきた。

「カナ、なんとかいってよ」

 無駄だと思いながらもカイトは加奈に助け船を求めた。

「あ、無理無理。これ、あたしの提案だから。ごめんね」

 てへぺろ、と舌をだす。
 まったく武藤家の人間はそろいも揃って策士だ。


   第19話につづく


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