第13話 スタミナ不足
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桜台と東海学院の試合は3-1と桜台がリードしていた。
東海の先発・
だが、主砲でもある万乗巌がタイムリーを打って1点を返す展開となり、8回裏、2アウト1、2塁でまたもや万乗に打順がまわってきたのである。
「絶対の守護神にしてめっぽうチャンスに強いスラッガー。それが万乗巌。東海学院の三年。不動のキャプテンだ」
「……投打にバンジョーがいるから、先発中継ぎは3点までは許容範囲ということか」
捕手がそういう余裕のあるリードで試合を運んでいるのがわかる。問題は対する桜台だ。桜台の捕手・大城智也は投手・滝沢に引っ張られ過ぎている。
「おまえも勘づいてると思うが滝沢はスタミナがない。その配分をうまくやらなきゃならないのに、捕手が滝沢の意志に任せているから、後半息切れを起こして打たれる。これが桜台のよくないパターンだ」
左打席に入っている万乗はカウントでは1ボール2ストライクと追い込まれている。だが、その表情に変化はない。バットを高く掲げて次の球を悠然と待ち構えている。
それは嫌な予感……というよりも確信であった。
案の定、滝沢の投じた4球目は澄んだ金属音をあげてはじき返されバックスクリーン直撃の逆転スリーランとなった。
まるでこの前の練習試合の、これは再現であるかのようだ。滝沢の序盤中盤はストレートに球威があるが、終盤に近づくと伸びのない棒球となる。
ただ速いだけのチカラのない棒球はバットを軽く合わせただけで簡単にピンポン玉のように飛んでゆく。こんな試合運びをつづける限り、桜台に勝利の女神は微笑まない。
9回表。それまで一塁を守っていた万乗がマウンドにあがってきた。
山のような巨体から投げ下ろす左腕は捕手のミットを震わせ、大砲のような捕球音を響かせる。
「決まったな」
兵悟が腰をあげた。次に控えている試合の準備をしなければならない。
「このままじゃダメさ。桜台は」
残念そうにつぶやいて兵悟は消えた。カイトの肩を軽くポンとたたいて。
第14話につづく