第15話 断崖絶壁に立つ男

文字数 592文字


「ボクは桜台だけど、野球部には――」

 最後まで聞かず、相手は被せてきた。

「おれは黄金山(こがねやま)工業の達森透(たつもり・とおる)だ」

 それだけいうと、ぷいとケージの外にでた。

「タツモリ……あ、ちょっと待って。Just a minute!」

 このままだと桜台の野球部員だと誤解されてしまう。追いかけようとした、そのときスマホの着信音が鳴った。
 画面をみると『KANA』と表示がでている。

「Oops!」

 慌てて周囲を見渡す。陽はとっぷりと暮れ、すっかり暗くなっている。バッティングに夢中で時がたつのを忘れていたのだ。
 恐る恐るタップすると――

『いま、どこにいるの! 先に晩ご飯食べちゃうよ!」

 加奈の怒鳴り声が響いてきた。

「I'm sorry」

『英語でごまかそうとしたってダメだからね。早く帰ってきなさい!」

「了解。いまから帰るから。先に食べてていいよ」

 通話を切ってスマホをポケットに入れるとカイトはバッティングセンターのロビーにでた。
 ざっと見回してみたが達森はどこにもいない。
 あきらめて、その足でバスに乗る。

「コガネヤマのタツモリ……」

 バスに揺られながら、カイトはその名をつぶやいた。
 兵悟とも万乗とも違うタイプの選手だ。
 彼らにはないものが達森にはある。
 それは断崖絶壁に立っているかのような切迫感だ。
 なにかを背負っている。
 それはなんなのか、カイトは知りたくなっていた。



   第16話につづく

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