第16話 誘導尋問
文字数 803文字
武藤監督宅は閑静な住宅街のなかにある建て売り一戸建ての住居だ。
バスから飛び降りると、カイトは全速力でダッシュして玄関チャイムを鳴らした。
むすっとした顔でエプロン姿の加奈がドアを開けてくれた。
「さっさと手を洗って着替えてきて」
いわれたとおり部屋着に着替えて食堂にゆくと、武藤も登も料理には手をつけず待っていてくれた。
「Thank you」
「じゃあ、いただこうか」
武藤が手を合わせおもむろに箸をとる。
どこにいってたかは訊かずに食事の時間となった。
大根とほうれん草のスープに人参とキノコのサラダ。大皿に乗ったメインの料理はキャベツ、ピーマン多めの
「……で、どうだった?」
しばらく黙々と箸を動かしていた武藤が突然、訊いてきた。
「なにが?」
とは、カイトは訊き返さない。今日の試合の感想を求められているのだ。
登から直接聞いたか、それとも内野席で兵悟と話していた姿を見られたかもしれない。
「お父さん、その話は――」
「いましたって構わないだろう。メシの味は変わらんよ」
渋い顔をする加奈にいつもと変わりない調子で武藤がいう。敗軍の将を恥じて落ち込んでいる様子はない。
「キャッチャーが悪い」
カイトは忖度などせず、素直な感想を口にした。
「困ったらアウトローばっかりでリードの幅が狭い。一点でもやりたくない気持ちはわかるけど」
「捕手は変えるつもりだ。他には?」
「決定力がない。ここぞという場面で打てるバッターがいないと――!」
途中でカイトは気がついた。
傍らの登をみる。
登は駒を指す仕草をした。
危うく誘導尋問にはまるところだった。
この家族はそろいもそろって策士だ。
「まあ、考えてみてくれ」
ぼそりとつぶやくようにいって武藤は箸を置くと自室に引き揚げていった。
「お父さん、片付けぐらい手伝ってよ」
という加奈の声を背中で聞き流しながら。
第17話につづく