第14話 くすぶる想い

文字数 761文字

 圧巻の投球であった。
 山のような巨体から投げ下ろす万乗巌の豪速球は、桜台打線を寄せつけなかった。
 三者連続三球三振。
 まさにチカラでねじ伏せた格好だ。
 桜台は三回戦で空しく敗退した。


 余熱がくすぶっている。
 カイトはそのまままっすぐ帰ろうとはせず、熱に浮かされたようにある場所へと吸い込まれていった。

 球場近くにあるバッティングセンター。
 気がつくとバットを握っていた。
 飛び出てくる球を一心不乱に打ち返す。

 ――あの球を打ちたい。打ってみたい。

 故障を理由に長らくフタをしていた感情であった。
 いくら試合を見たところで、かつての野球に対する情熱はもう沸き起こらないだろうと思っていた。

 違った。
 それはまだ、自分のなかに燃えかすのようにくすぶっているのだ。
 どうしようもない想いや苛立ちをぶつけるようにカイトは打った。打ちつづけた。
 すると――

 打球音がシンクロした。
 隣のケージでカイトと同じように140キロの球を打ち返しているものがいる。

 カイトは思わずバットを止めて隣を見た。
 キャップを目深に被った男だ。左の打席に立っているのでカイトとは向かい合わせの位置にある。
 身長は自分と同じ174、5といったところか。細身の体でややスウェー気味にボールをとらえている。
 だが、気になったのはその表情だ。
 必死なんてものじゃない。鬼気迫る形相でバットを振っている。

 がらん。

 男が突然、バットを落とした。
 グリップ部分についている赤い染みは血か。
 男が自分の手のひらをみて顔をしかめた。
 どうやら血マメを潰したようだ。

「Are you ok? 大丈夫かい?」

 カイトは思わず声をかけた。
 男が振り向く。
 刺すような視線でカイトをにらみつける。
 男が逆に訊き返してきた。

「おまえ、どこの野球部だ?」



   第15話につづく

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