第24話 火球!
文字数 614文字
滝沢が例のフォームで第三球を投じた。
唸りをあげてボールが向かってくる。
カイトは右脇を絞って最短角度でバットを振り出す。
ボールが白い炎をまとった。
今度こそ捉えたタイミングであった。
ジッ!
という音が聞こえた。
その瞬間、ボールが赤い炎につつまれた。
ボールがバッターの手元で加速する際の白い炎ではない。
あれはスピンによって、縫い目に付着したロージンバッグの白い粉がほどけるときに起きる現象だ。
それではない、別種の赤い炎。
高速で振り出されたバットとの摩擦熱でボールそのものが燃えていた。
火球が自分のミットめがけて左右にブレながら飛び込んでくる。
(捕り損ねたら負けだ!)
藤丸の体が、その全神経が一気に緊張した。
カイトのバットはすでに空を切っている。
ここで自分がボールをミットからこぼしたら、ファールだ。三球三振という形にはならない。
(死んでも捕る!)
カイトを逃してはいけない。決定力に欠ける桜台にとって彼は貴重な戦力だ。このバッティングがなければ桜台は地区予選を勝ちあがって甲子園の土を踏むことは不可能だ。
藤丸は構えたミットを目一杯に開いた。
ドーン!
という落雷のような轟音が響く。
ミットのなかでボールが暴れる。
突き飛ばされたような格好で尻もちをついた。
焦げくさい臭いが鼻をつく。
こんな臭いを感じたのは久しぶりだ。
(やっぱスゲーや)
藤丸は思わず笑みを浮かべるのであった。
第25話につづく