第55話 怒りと悔しさとドッキリ!?

文字数 484文字


 真夏の太陽は西に傾きはじめてはいるが、カイトのTシャツはぐっしょりと汗で濡れていた。
 保土ケ谷球場が目の前に見えてきた。
 やけに静かだ。
 もう、試合は終わってしまったのか?
 いや、まだだ。
 再びブラバンの音色や歓声が聞こえてきた。
 カイトは走った。
 切なる祈りをこめて。



「チクショウ! チクショウ!」

 遊川は泣いた。
 最後のバッターになってしまった。
 届かなかった一塁ベースをたたいた。
 怒りと悔しさをこめて。
 だけど……。

 なにやら一塁ベンチが騒がしい。
 だれもが身を乗り出してバッターボックスの方に手を振っている。
 幻聴だろうか、「早くもどれ」といってるように聞こえる。
 とんとん、と塁審に背中をたたかれた。

「きみ、早くバッターボックスにもどりなさい」

 え? だってあんた「アウト」って右手をあげたじゃないか。

「ファウルだ。三塁塁審のジャッジが遅かったのでアウトとコールしたが、ファウルでやり直しだ」

 遊川は長い長い溜め息を吐いた。
 たちの悪いドッキリを仕掛けられたような気分だ。
 遊川はのろのろと立ちあがると重い足取りで右打席へもどった。


   第56話につづく
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