第57話 期待の代打
文字数 484文字
つい手元が狂った。
なぜ狂ったのかはわからない。
なにか不吉なものがこちらに向かってくる感覚。悪寒に似たものが背中を貫いたのだ。
体をひねればかわせるはずの球だ。
それを桜台の3番打者はボールの進行方向にそのまま身をひいて当たった。
肋骨の下辺りを直撃し体をくの字に折り曲げて倒れた。
「タイム!」
武藤監督が直接駆け寄ってきた。
本来、監督はグラウンドにでられないが非常事態である。主審は特例として認めた。
「立てるか?」
武藤が悶絶している遊川に訊いた。
「大丈夫。立てます」
「代走を出そうか?」
「お…お願いします」
「代走、高橋。代打、日野!」
武藤がその場で主審に告げた。
「カイトが、カイトがきてるんですか?!」
武藤に支えられながら遊川はベンチをみた。
カイトが慌ただしく桜台のユニフォームに着替えている。
「そうだ。おまえの仇はカイトがとってくれるだろう」
カイトがバットを手にグラウンドにでてきた。
やっぱり、まとっているオーラが違う。
期待にこたえてくれそうな雰囲気をもっている。
遊川はカイトに向かって親指を立てるといった。
「頼んだぜ」
第58話につづく