第59話 遮断される世界

文字数 426文字


 その球は山なりのゆるい軌道を描いて外角にはずれるはずだった。
 だが――
 途中からなぜか軌道を変えた。

 ボールが吸い込まれてゆく。
 ストライクゾーンのど真ん中に。

 カイトが始動する。
 振り出されたバットはボールを正確に芯で捉え、まっすぐ打ち返した。

 センターが頭上はるかを仰ぐ。
 それは虹のような放物線を描いてバックスクリーンを直撃した。



 一塁側から歓声が沸きあがったような気がする。
 だが、達森の耳には入ってこない。
 外界の動きに反応する器官が遮断されたかのようだ。
 ぷつり、と内部で音がした。
 それはいままでの自分を支えていたなにかであった。
 それが切れた。
 膝から崩れ落ちる。
 ナインがマウンドに駆け寄ってくる。
 ようやく音が、光がもどってきた。
 ナインが駆け寄ってきて口々になにかを叫んでいる。

「達森、しっかりしろ!」

 宮田の声だ。
 屈んだ宮田の背中越しにはっきりとみえた。
 日野海渡という男が逆転のホームを踏むのを……。



   第60話につづく

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