第19話 絶対の自信
文字数 699文字
「あんまりじゃないか」
ほんの少しだが、怒りが沸いてきた。
「ボクは野球ができない体だし、野球はやらないといったはずだ」
その場にいる野球部全員の顔を見渡し、最後に加奈に視線をとめる。
「カナ、きみは残酷な女のコだよ」
「じゃあ……」
加奈がおもむろに口を開いた。
「じゃあ、なんでバッティングセンターになんかいったのよ!」
「ッ!――」
そうだった。不慣れな日本で迷子にならないように、スマホの位置情報を取得することを加奈には許していたのだった。
「それは……」
「ホントはやりたいんでしょ、野球を」
加奈が見透かしたようにいう。
「やりたきゃやりゃあいいじゃん! なにを悲劇のヒーローぶってんのよ。
なにもレギュラーメンバーになれっていってんじゃないの。一打席でもバットを振るチカラがあるなら、その一打席をあたしたちに貸してほしいのよ!」
つまりは代打でけっこうということか。それならできるかもしれない……と自分の心が揺れはじめる。
「カイト……」
大城が一歩前に進み出た。
「強引な申し出だとはおれも思う。だけど、滝沢のあの球を見れば、きっと、おまえも考えが変わる」
さっきから話題にでている「あの球」とはなんだろう。身勝手な申し出とは別に、カイトは好奇心がうずき出すのを抑えられなくなってきた。
「OK! ごちゃごちゃいい争うのはボクも好きじゃない。要はバットに当てさえすれば、ボクはきみたちから解放されるというわけだ」
「そうだ。今後、おれたちはおまえにいっさい関わらない。ただし、負けたら野球部に入ってもらう」
滝沢が強い意志をこめてカイトを見据える。
その瞳には絶対の自身が宿っていた。
第20話につづく