第43話 放たれた秘密兵器
文字数 797文字
8回裏。
1点ビハインドで迎える黄金山工業の攻撃。
プロテクターとレガースを装着中の藤丸に滝沢が声をかけた。
「アレを使うぞ」
「え? でも」
藤丸が三塁側内野席に陣取る相模野バッテリーと川澄監督をみる。1点を死守したい気持ちはわかるが、ここで手札をさらしていいものだろうか?
「達森はおれのストレートと変化球に対応している。ノーアウトのランナーをだすわけにはいかない」
6回裏の攻撃で達森はライトオーバーのヒットを打った。タイミングをはかって完璧に捉えたあたりだった。
神楽坂の奇跡的な守備のおかげで二塁アウトにできたが、同様の奇跡を今度も期待するというのはムシがよすぎるというものだ。
「わかりました。抑えましょう」
藤丸は了解した。ちらりと監督の方をみる。武藤も渋々うなずいている。トーナメントは一発勝負だ。出し惜しみして負けては意味がない。
主軸の達森を抑えさえすれば黄金山の心を折ることができる。
その達森が左打席に入った。
先頭バッターだ。なんとしても塁にでて、まずは1点を返さねば……。
顧問の根岸は見切りをつけて先に帰ってしまった。
このままずるずると負けるわけにはいかない。
「プレイ!」
主審が試合再開を告げる。
滝沢の右足があがった。
「!」
踏みだす足の歩幅。ストライド幅がおおきい。
リリースとともに軸足が跳ねあがり土煙が派手に舞いあがった。
いままでとは明らかに違う力感あふれるフォームだ。
白い炎をまとってボールが唸りをあげて飛んでくる。
思わず体が硬直した。
ドーン!
という、いままで聞いたことのないような音を響かせて藤丸のミットに突き刺さる。
「ストライークッ!」
主審の右手があがった。
(なんだ、いまの球は?!)
反応すらできなかった。
驚いたのは達森だけではない。球場全体がどよめいていた。
電光表示板に示された球速はなんと150キロであった。
第44話につづく