第44話 ヘッドロック
文字数 641文字
「150キロでたよ」
兵悟が思わず唸った。
「本来ならば披露したくなかったやつですね、これ」
晋之介が戦略的なキャッチャー目線でいう。
「ったく、出し惜しみすんなっつうの」
巨乳を揺らして川澄が座り直した。
「だけど、あのフォーム……」
晋之介は早くも見破っている。あの投法をつづければ肘も肩も壊れてしまうことを。
「まあ、要所で使うしかないだろうな。いまがその要所ってやつだ」
兵悟もわかっている。体全体を投石器に見立ててフルパワーで押し出してくるフォームは腕の負担がおおきい。
「おれがやったら脱臼しちまうかもな」
「おまえはそんなヤワじゃねえだろ」
川澄がすかさずツッコミを入れた。
「それはともかく……」
川澄が表情を引き締め二人に訊いた。
「打てるか?」
「150キロのパワーストレートですよ」
晋之介が難色を示すように眉を垂れた。
「ムリムリ。おれら大リーガーじゃねえッスよ」
兵悟も完全に同意する。
「じゃあ、あたしの野望はどうしてくれるんだよ」
川澄陽子の野望は甲子園初の女性監督として優勝の胴上げをされることだ。それは常日頃、部員たちにいってある。
「おれら監督の野望のために野球するんスか?」
兵悟がそっぽを向いてひとりごとのようにいった。
「あたりまえじゃないか、そんなの!」
川澄がすかさず兵悟をヘッドロックする。
「イタタタ……パワハラ反対!」
ちょうど兵悟の頭の位置が川澄の巨乳の谷間に埋もれている。
「………………」
ちょっとだけ羨ましいと思う晋之介であった。
第45話につづく