第26話 メジャーという目標
文字数 629文字
「Figured. やっぱりそうか」
カイトが痛ましげに滝沢の左肩をみる。
「大丈夫だ。痛みはない」
「要は投げすぎなければいいんです」
藤丸がフォローを入れる。
「滅多なことではサインはだしません。これはあくまでも非常事態に陥ったときの秘密兵器。奥の手だと思ってください」
体は三塁方向に極限にまでねじれ、踏みだした右足と左腕が一直線につながるこの投石器のようなフォームは体の負荷がおおきい。
だれが見ても無理のある投法であり、こんな投げ方をつづけていればいずれ左肩の付け根から吹っ飛んでゆくだろう。
「そんなにしてまでボクを引き入れたかったのか」
あえて感情を抑えた口調でカイトはいった。
昨日の試合で滝沢は9回を投げきっている。本当は体も肩も休ませなければならないのに、さらに酷使するハンマーボールで挑んできたのだ。
「おれは甲子園にいきたい。その先の目標もある」
「その先の目標?」
「メジャーだよ」
後ろから別の声が聞こえ、武藤監督がやってきた。
「滝沢の夢はメジャーのマウンドに立つことなんだ」
「夢じゃなくて目標です」
強い意志をにじませて滝沢が訂正した。
「そういや、おまえシアトルからきたんだよな」
小野兄が興味津々といった感じで話題をふってきた。
「もしかして……」
「Sure. もちろんイチゾーの大ファンさ。ボクは彼のようになりたくて野球をはじめたんだ」
その瞬間、「おおーっ!」というどよめきがメンバーの間からいっせいに沸き起こった。
第27話につづく