第21話 白い炎

文字数 737文字

 滝沢が投球モーションに入った。
 一体、どんな球を投げるというのか。カイトはトップの位置を深くとって待ち構える。

 滝沢のあげた右足が踏みだされた。ストライド幅が広い。いままでにないダイナミックなフォームだ。
 上半身が下半身と連動してねじれた。
 遅れて腕がでてくる。
 踏みだした足と左腕が一直線につながっている。
 ほとんど、体の真上だ。
 まるで目一杯にたわめた投石器のようにボールがリリースされ、同時に背後で土煙が噴きあがった。マウンドの土をえぐるように後ろ足のスパイクで跳ねあげたのである。

 ボールが唸りをあげて向かってくる。正確にストライクど真ん中の軌道だ。

「ッ!」

 ヒッティングゾーンでボールが加速した。これは幻覚か、白い炎を噴きあげている。

 ドーン!
 という轟音をたててボールはミットに炸裂した。

「ストライク!」

 主審役の大城が高々と右手をあげコールした。
 ど真ん中のストライクといえど、これは見送るしかなかった。カイトはいったんバットを下ろし、藤丸にいった。

「Amazed! 凄い球だね」

「でしょ。でも、まだまだこれからですよ」

 いまの球だけでも150キロは超えているだろう。まだまだ球速があがるということか。
 カイトは再びバットを構えた。
 滝沢が第2球のモーションに入る。
 バットヘッドの高さは変えない。
 軌道は覚えた。

 滝沢の背後で爆風のような土煙が立ちのぼる。
 放たれたボールがまっすぐど真ん中のヒッティングゾーンに入ってきた。
 始動を早め、一直線にバットを振り下ろす。
 ボールの加速とフォワードスイングの加速が完全に一致した。
 その刹那、カイトの脳裏に打球の放物線がみえた。
 カイトの瞳は打球が吸い込まれてゆくであろう青空を映していた。



   第22話につづく

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