第8話 誤解、間違い、勘違い

文字数 711文字


 樋口はハイヒールのままグラウンドにあがると、なぜか相模野のユニフォームを着ているカイトを発見した。

「なにやってるのあなた! そんなところでっ!」

 むんずとカイトの左の耳たぶをつかむと、そのまま桜台のベンチまで引きずってゆく。

「さあ、みんなの前で説明しなさいっ!」

 こんなヒステリックなひとだったかと、カイトは意外な目で樋口をみると、相模野の控え選手に扮した経緯を桜台ナインの前で縷々(るる)説明した。

「相模野が廃部寸前の弱小野球部だってえ?!」

 真っ先に声をあげたのはキャプテンの大城だ。

「弱小どころか、毎年県大会ではベスト8に名を連ねる強豪校だよ」

 それにしては滝沢の球を全然打てなかったのはなぜだろう?
 素直に疑問を口にすると――

「あのコたちは来月、相模野に入部する新一年生だ」

 監督の武藤武(むとう・たけし)が代わりにこたえる。
 道理で体のできていない小柄な選手が多かったわけだ。だけど、まだ疑問は残る。なぜ、他校の新一年相手にわざわざ胸を貸してやったのか?

「グラウンドの改修工事で去年の冬、ウチのグラウンドが使えなかったんだ」

 なので野球グラウンドを二面持つ相模野に間借りさせてもらった。いわば、今日はそのお礼なのだという。

「違うでしょ。おとうさんは、あの巨乳オンナに乗せられたのよね」

「こら、学校では監督と呼べといってあるだろう」

 監督の武藤と女子マネの加奈(かな)は親娘であるようだ。巨乳オンナとは相模野の指揮をとる女性監督だそうだが、加奈は彼女に対し敵意を剥き出しにしている。

「おい、おまえ。おれを見て有坂となんかいってただろう?
 なんていってたんだ?」

 赤毛のチャラ男こと遊川慎吾が尖った目でカイトをにらみつけてきた。



   第9話につづく

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