第7話 割れた窓ガラス

文字数 722文字


「どういうことかね、それは?」

 校長の赤池に問い詰められて樋口美希子は困った顔をつくった。

「大体、いま、彼はどこにいるんだ?」

「それが、わたしがトイレにいっている間にどこかへ消えたようです」

「携帯かスマホは持っていないのか?」

「呼び出してはいるんですが、応答がありません」

「……なんてことだ。着いて早々、校内で行方不明。しかも野球ができない体だったとは」

「彼の体の問題は顧問の西荻先生に伝えたはずです」

「西荻くんはどこに……そうか入院中か」

 赤池校長は浮かせかけた尻をどすんと校長室の椅子に落とした。
 報告、連絡、相談……俗にいうホウレンソウが教師のあいだでとれていない。
 みな自分の業務で手一杯で、情報の共有と意志の疎通がおざなりなのだ。

「西荻先生は明日退院するそうですので、そのときにでも……」

「そんなの完全な事後報告じゃないかっ!?」

 赤池校長が声を荒げた。温厚とまではいかなくても、気配りのできるひとなので、こんなふうに自分の感情を露わにするのは珍しい。

「せっかく交換留学生という名目で呼び寄せたのに、これじゃなんのために……」

「使い道はいろいろあります」

 愚痴りモードに入りそうだったので樋口は腹案を披露してみた。日米少年野球の違いをカイトにリポートさせれば、マスコミも興味を持って取材に乗り出してくるかもしれない。
 少なくとも我が校の広報の役割は果たしてくれるだろう。

「そうか、その線があったか。ナイスアイディアだ。すぐ、彼をここに呼ぶんだ」

「ですから、いまどこにいるのか……」

 そのときだった。けたたましい破砕音が響いて校長室のガラスが割れた。
 部屋に飛び込んできたのは外から放り込まれた野球のボールであった。



   第8話につづく

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