第25話 ハンマーボール
文字数 610文字
無様に尻もちをつきながらも藤丸はミットからボールをこぼさなかった。
大事そうに抱えるようして背後の大城へ振り返った。
「ストラックバッターアウト!」
大城のジャッジが響き渡る。
その瞬間、メンバーの間から歓声が沸きあがった。
「やった!」
「三球三振だ!」
「滝沢の勝ちだ!」
メンバー同士でハイタッチを繰り返す。だれもが自分のことのように滝沢の勝利を喜びあい、満面の笑みを浮かべている。
カイトは静かにバットを下ろすと藤丸をみた。
「かすってました。さすがです」
立ちあがって藤丸がボールをみせた。上っ面の部分に焦げ跡が残っている。
つまりタイミングはあっていた。あと1ミリ下にバットをだしていれば、打球はホームベースをたたいていただろう。
「約束だ」
滝沢が自らマウンドを降りてきていった。
「OK」
カイトが短くこたえる。
「よっしゃー!」
「戦力アーップ!」
「カイト、キターッ!」
再びチームメンバーが歓喜に沸き立つ。もう甲子園は決まったといわんばかりのはしゃぎようだ。
「いまの球はなんていうんだい?」
カイトが滝沢にたずねる。
「パワーストレート。だが、おれはハンマーボールと呼んでいる」
まさに真上から打ち下ろすように投じてくる球だ。
「いい球だ。However……だけど……」
いいにくそうにカイトが口ごもる。
「おまえのいいたいことはわかっている」
滝沢は左肩をまわすと、わずかに片眉を歪めるのであった。
第26話につづく