第9話 期待の輪
文字数 669文字
遊川は色狂い、大城はジコチュー、滝沢はキレたら手のつけられないやつ……カイトは兵悟から受けた説明をそのまま口にした。
「あの野郎!」
唸り声をあげて三塁ベンチを振り返ったのは遊川だ。ベンチにはもうだれもいない。逃げるようにそそくさと引き揚げてしまっている。
「その言葉を真に受けたのか?」
冷静な口調で問いかけたのは大城だ。
「真に受けるもなにも来たばかりだから……みんなのこと、よく知らないし」
「おれたちの人物評なんかどうでもいい。きみは廃部寸前ときいてなんとかしてあげようと思った。そういうことだよな」
やっと話のわかる人物に出会えた気がする。さすがはキャプテンだ。
「監督、こいつは困っているひとをみると、ほっとけないタイプのようだ。さっそく入部手続きをとりましょう!」
大城がヘンな方向に話を持っていこうとしている。
「そうだな。カイトくんとかいったか。ウチもおおいに困っているんだよ」
武藤監督が期待のこもった目でカイトを見た。
監督だけではない、大城をはじめとして遊川までもが身を乗り出している。
ただ打たれた滝沢だけはカイトから目をそらし、期待で膨らんでいる輪には入ろうとしない。
「あのう……」
カイトは助けを求める目で樋口を仰ぎ見た。やっぱり話は行き渡っていないようだ。
「実は……カイトくんは4年前の事故で野球ができない体なの」
樋口がようやく助け船をだしてくれた。
「ウソだ!」
叫んだのは遊川だ。遊川は立ちあがるとカイトに向かって指を突きつけた。
「そんなやつがどうして場外満塁ホームランを打てるんだよっ!」
第10話につづく