第5話 複雑な感情

文字数 655文字


 試合がはじまった。
 相模野の先攻で部員たちは積極的に打ちにでるのだが、相手投手の滝沢の前に三振の山を築いてゆく。
 滝沢の武器はストレートとスライダーで、かなり速い。
 相模野はチャンスすらつくらせてもらえず6回表までゼロを行進させてしまった。

「ピッチャーの球が速いのはもちろんだけど、二遊間を守る連携がきいてるね。息もバッチリだ」

 たまに一塁にランナーがでるのだが、難しい内野ゴロも難なくさばく二遊間コンビの連携プレーがチャンスの芽をことごとく摘んでいる。

「そりゃそうさ。あいつらは兄弟だからな」

 そういえば、どことなく顔立ちが似ている。

「セカンドが兄の小野健太郎(おの・けんたろう)
 ショートが弟の進次郎(しんじろう)だ。こいつら兄弟もひどくてヤベーやつだ」

 もうなにがひどくて、なにがヤベーのか兵悟はいちいち説明しようとしない。
 自軍のふがいなさに若干いらだっているようだ。

 6回表の攻撃が終わり、点差は5点に開いている。
 0-5で迎えた桜台の攻撃。
 カイトはずっと気になっていた選手がいた。
 身長が高い。190は軽く超えているだろう。
 目をひくのはそれだけじゃない。ピッチャーに正対するかのような極端なオープンスタンス。長いリーチを誇っているとはいえ、外角の厳しいコースには対応しづらいのではないか。

「タス(にい)は内角が苦手なんだよ」

 苦みを含んだ声で兵悟がいう。明らかに桜台の他の選手とは違った感情がこめられている。

「タス兄?」

神楽坂佑(かぐらざか・たすく)。おれのイトコさ」

 兵悟はゆるゆると首を振ると、なぜか深いため息をつくのだった。



   第6話につづく

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