第22話 名捕手、藤丸
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タイミング的にも完全に捉えたスイングであった。
だが――
バットの上をすり抜けるようにしてボールは藤丸のミットに収まった。
「ストラックツー!」
大城の声が響く。
(ホップした?)
いや、理論上、ボールがホップすることはありえない。
投げ下ろされたボールが予想の軌道どおり落ちなかっただけだ。
カイトのバットは滝沢のボールの下をくぐった。スピンのかかった球は途中から高度を保って予想される軌道を裏切ったのである。
「Great!」
カイトは唸った。捕手の藤丸をみる。
「きみもだよ。素晴らしいキャッチングだ」
並の捕手ならいまの球は後ろに逸らしているだろう。
「お褒めにあずかり光栄です」
藤丸が照れくさげにぺこっと頭を下げる。
「藤丸はボーイズリーグでも評判の名捕手だったんだ」
主審役の大城が解説する。
「引く手あまただったが、そのすべてを断りウチにきてくれた」
「滝沢さんのボールに惚れ込んだんです。ぼくがうまくリードすれば、滝沢さんはもっともっと勝ち星をあげることができる。そう思って――」
「つまり、ヘタッピのおれに任しておけないと思ったんだよな」
「いや、そういうわけでは……」
からっとした口調なので藤丸の言葉は辛辣に聞こえない。大城も苦い笑みを浮かべながら受け入れている。
「最後の一球だ」
無駄話は終わりだといわんばかりに滝沢が乾いた声でいった。
「OK!」
カイトが応じる。
今度はグリップの位置を下げた。
構えが低い。
それだけではない。バットをひと握り分短く持つ。
完全にミート主体のバッティングに切り変えたのであった。
第23話につづく