陰陽師

エピソード文字数 730文字

 干ばつでも、大水でも役に立つ治水。そんな都合のよいものが、かつての日本にはあった。
 「安倍ちゃんに会っておいでよ。」
 閻魔の言葉に不安がよぎる。う~ん。あの総理大臣でしょ。治水まかせて大丈夫かな。
 「違う、違う。治水といえば陰陽師。清明だよ。」
 今は、地獄にも極楽にもいかず、あの世で自由を満喫しているらしい。実質、手に負えないので放置しているというところだろう。

 「陰陽道の極意は、ケッカイ。」
 結界で治水できれば苦労はない。
 「川があふれた時は、上流で早めに決壊させるんじゃ。そのためには沼が必要だ。干ばつの際のため池にもなる。幸い地獄は広い。上流で水位を調整すればいい。間違っても池は造るなよ。いつも水を張っていて喜ぶのは河童ぐらいじゃ。水が余れば一気に溢れるし、水が減れば干からびる。草地だったらゆっくり流れるし、干からびることも無い。昔は、そこを田畑にし、万一のことがあれば貯水した。それで、稲や作物がだめになれば補償もする。水害を防いでくれた代償のようなものじゃ。これこそが、真の結界というものじゃ。」
 古代人の知恵には頭が下る。人々の懐の深さもあろう。沼や田畑といった湿地帯が大切なのだ。

 さっそく、川上へ交渉に出かけた。
 「うちは、砂漠なんだ。水につかったら違うものになっちまう。」
 「ここは、雪が名物。水も氷はいらない。」
 「灼熱なので、みんな蒸発しちゃうよ。サウナにでもするつもりかい。」
 「血の池が薄まったら困るよ。」
 獄卒たちのわがままぶりに、鬼と叫びたくなる。

 「説明して納得なんて誰もしてくれないよ。だから密かにやるんだよ。」
 きっと、昔も今の住人というものは権利ばかり主張するものなんだ。
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登場人物紹介

主人公

地獄で入獄拒否され残りの人生を霊として過ごす

主人公を保護観察する死神

雪女。

居酒屋雪ん子の女将。

死神の知り合い。

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