あの世で産業革命

エピソード文字数 1,317文字

 今、俺と死神は豪華な馬車の中で向かい合って座っている。
「今回、地獄めぐりに同行するに当たって、閻魔庁の視察という名目になっておりますので、あまり軽はずみな言動は控えてください。」
 黒のスーツに黒い伊達メガネの死神が、えらそうに説明をする。要約すると、保護観察の身の俺を単独で旅行させるわけにはいかない。かといって、こいつは有休も使い果たして、身動きが取れない。そこで、閻魔の側近のマブダチとやらに泣きついて視察ということで給料をもらいながら旅行しようと考えたわけだ。しかも、広い地獄の中、移動も大変なので閻魔の馬車まで借りてきたという。

 「先ずは、死者が最初に訪れる賽の河原へ行きます。そこで、奪衣婆(だつえば)と懸衣翁(けんえおう)に会います。」
 閻魔の馬車は馬頭(めず)という馬の頭をした鬼が引いていた。
「どけどけどけ!閻魔の馬車のお通りだ!」
 速いのはよいが、少々荒っぽい。他にも牛頭(ごず)が引く牛車があるのだが、こちらは安全運転。しかし、歩くより遅いのが難点という。

 川原に下りると、すがすがしい空気が鼻をくすぐった。群馬の田舎の山奥でもいまやこんなおいしい空気は堪能できない。
「最近、収入の申告が少ないようですが、何かありましたか?」
 死神は、閻魔から渡された資料を見ながら、一人のいかつい老婆に質問している。
「近頃の連中は、金目の物を隠すのがうまくて。怪しいやつは、地獄の番犬のケルベロスの鼻で確かめるんじゃが、なにせ人数が多くて間に合わん。」
「それでは、ケルベロスの増援をお願いすることにしましょう。」
 死神のやつ、意外とちゃんと仕事をしてるじゃないか。
「わしよりも、大変なのは爺さんのほうさ。」

「服が乾かなくて、休みがとれん。」
 ニコニコと穏やかそうな老人が白い浴衣を干しながらつぶやいた。なんでも、罪が重い人間ほど三途の川を渡る際に浴衣が水を吸うというのだが、昔に比べて重いものが増えたという。当然、乾きが遅くなる。
「今は、灼熱地獄で乾燥させておるが、そのうち間に合わなくなりそうじゃ。」
 服は乾燥させて、また使いまわすらしい。

 しばらくしていると霊を引き連れた死神一行がやってきた。
「ここから、閻魔庁まで、まだまだありますからね。ちゃっちゃと歩いてください。根性、根性。」
「いやあ、もうへとへとで歩けねえよ。1時間ごとに10分休憩。根性論なんて今時、はやらねえよ。」
「夜は、宴会とかねえのかい?」

 すっかり、観光と勘違いしているやつらもいるようだ。
「最近の霊は、体力がなくて。霊なので気力でしょうか。」

「車とか機械は無いの?」
「そういう、文明的なものは一切ありません。地獄では体力が全て。そういう俗物は全て、没収となります。鬼は筋肉脳ですから技術者もいなければ、考えもしません。日々、酒を飲み、喧嘩するか、亡者をいびるか。魔王は魔法が使えるので困りません。死神は鎌とマントがあれば食いっぱぐれ無し。」

 俺は、ハッとひらめいた。無いなら造ろう。地上の技術で大儲けできる。幸い時間と労働力は有り余っている。地獄に産業革命を起こしてやろうではないか。
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登場人物紹介

主人公

地獄で入獄拒否され残りの人生を霊として過ごす

主人公を保護観察する死神

雪女。

居酒屋雪ん子の女将。

死神の知り合い。

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