人災

エピソード文字数 1,013文字

 あの世にも天候がある。偉大な人が亡くなった時は雨が降る。功績によって雨の量は異なる。三途の川にダムなどない。だから、大雨になれば氾濫する。
 「子供たちは至急避難してください。」
 川原にいるのは主に、石を積んでいる子供たち。見回りの鬼、鬼吏(きり)は地図を片手に急いで彼等を抱きかかえると、一目散に高台へ向かう。その際に積み上げた石を蹴散らしてしまう。

 そう、鬼が嫌がらせで積み上げた石を壊しているわけでなく、避難する際にやむを得ず蹴ってしまうのだ。
 「避難行動を非難されるなんて不条理だ。」
 鬼たちはつぶやくが、現世ほど不条理なところもあるまい。
 逃げ遅れた場合には、河童たちが助けに行く。レスキュー吏(り)。

 ここ何十年と雨は降らない。警報は出るものの、いつもこの上もなく晴れている。
 「偉大な方の死ほど、天気が極端になります。天才は天災に通ず。」
 日本の政治家もかなり年寄りが増えてきた。大荒れの天気になるのだろうか。
 「そうですね、じきに戦後最大級の干ばつがやってきます。今回は天災というより人災ですね。」
 川の水位を測りに来た官吏が、こっそり教えてくれた。

 「災害こそ発明の種。」
 干ばつに備え、水を確保する方法を考えよう。
 「ダムは無駄です。想定外の事態となれば、大災害を引き起こすことになる。数十年に1度の大災害より、数年に1度の小災害。なんせ、すでに死んでいるのだから。」
 閻魔のいうことは最もだ。文明の発達していない地獄では、小災害は避けられても大災害は防げない。
 水はなくても、氷や雪は豊富にある。極寒地獄の氷を、灼熱地獄で溶かせば、天然水の出来上がり。ただ、容器がない。
 「氷や雪なら妖気で閉じ込められるけど、水は神が操るものだから。」
 雪女の酒樽では長期保存はできない。酒があれば飲み水はいらない。
 「川の水が無くて困るのは、懸衣翁と渡し舟の船頭でしょ。」

 早速、渡し守に会いに行く。
 「いま、視察でギリシャにいってるよ。同じ渡し守のカローンと組合を作るらしい。」
 懸衣翁が教えてくれた。
 「今は船がなくても、橋があるし困らないよ。人手不足だからね。渡り賃はきっちり取るよ。だから、川を渡ってくる連中も減った。最近じゃ、撥水加工とやらで水を吸わない服を着てくるし。」
 まあ、地獄も変わったものだ。
 「水が減ると、脱走する霊が増えそうだけど。」
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登場人物紹介

主人公

地獄で入獄拒否され残りの人生を霊として過ごす

主人公を保護観察する死神

雪女。

居酒屋雪ん子の女将。

死神の知り合い。

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