バカンス

エピソード文字数 707文字

 社長業ってのは、休みが無い。失敗もあるが、事業も安定している。ここらで命の洗濯をしてもばちは当たるまい。
「ちょっと遠いので支払いに寿命がかかりますが、阿鼻叫喚地獄にいいお湯があるんですよ。」
 ほんとうはお前が行きたいんだろうと、死神につっこみたいところをグッと抑えた。まだまだ寿命は十分にある。いっそ早いとここの宙ぶらりんな状態から抜けだしたいとさえ思う。

「往復するとなると、寿命が十年ほど縮まりますが、よろしいですか?社長。」
 会社は部下にまかせて。死神とおじさん二人旅。
「お待たせ~。」
 出発の三途の川の淵に、もう一人着物姿の女性が現れた。
「つい、旅行の話をしたら女将もついていくって聞かないんで。むしろ世話になったから旅費まで出してくれるっていうんですよ。」
 いやいや、こっちは残り寿命を減らしがてら旅行にいくんだ。しかし、雪女は一度言い出したら聞かない。ぶるぶるっと身震いがした。これは、寒いからというわけでもないだろう。こっちも情にうったえかけながら断ろうとするも、実にクールに割り切ってくる。
「業者からの接待は、ご法度ですから。店の『お得意様いちもくおく還元キャンペーン』は問題ありません。店と客は商取引ではないですから。」

「ところで、雪女って熱さに弱いんじゃないのかい?」
「私の目当ては温泉じゃなくて、そのお客。」

 くるまで現地につくと、すぐにその意味が分かった。なんと、入り口には雪ん子直営の酒屋が出ていた。なるほど、だから還元キャンペーンというわけか。
「ためし飲みもできますよ。ちなみに試飲(しいん)とは言わないでくださいね。死因と重なって縁起が悪いですから。」
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登場人物紹介

主人公

地獄で入獄拒否され残りの人生を霊として過ごす

主人公を保護観察する死神

雪女。

居酒屋雪ん子の女将。

死神の知り合い。

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