エア魂

エピソード文字数 825文字

 逃がした魚は大きいというが、俺たちは細々と小型の霊蔵庫を作っていた。そんなおり、地獄に異常気象が続いた。灼熱地獄はさらに暑くなり、寒冷地獄は寒さが増した。
「各地で獄卒たちがすっかりやる気をなくして困っています。何かよいアイデアはないかと閻魔庁からの打診がありました。」
 死神が閻魔直々の親書を持ってきた。

 霊蔵庫の冷却技術に目を付けた役人が、暖房も何とかならないかといってきたのだ。
「そんな都合のいいものがあるかい!」
 そうは怒りつつも、せっかくのビッグチャンス。困ったときの田舎だのみ。さっそく昭和の遺物をあさった。ガスも電気も、灯油もないあの世で暖房になる物は、炭ぐらいだ。しかし、火鉢を配るわけにもいかない。ものぐさな鬼達がおき火など管理できるわけがない。埃まみれになって探したが何も見つからなかった。
「あ~、ひとっ風呂あびたいなあ。」

 群馬といえば草津だろう。霊体だから湯畑の中に入っても誰も気付かない。しかし、やはり普通の温泉がいい。とりあえず、町営の温泉に行くことにした。
「いやあ、極楽ですな。」
 同行の死神のやつもちゃっかり入ってやがる。
「死神が極楽はいけませんな。内緒にしておいてください。」

 体は無いが、心は温まった。
「灼熱地獄の温泉といい勝負ですよ。」
「そうだろう。群馬が誇る名湯だ。」
 そういい終わらない内に、俺と死神は顔を見合わせた。そして、あわてて外へと飛び出した。

 地獄には温泉と冷泉がある。ゆで卵ができるほどの灼熱地獄の温泉と極寒の中でも凍らない冷泉。地獄の中は入り組んでいて、この2つが隣接する場所がいくつもあるのだ。俺はそれぞれから湯と水を引っ張ってきて温風と冷風とがだせるような箱を作った。湯と水は、亡者の霊魂が媒介となって休みなく空を飛んで運んでくる。まさに夢の媒体である。彼らも元は俺と同じ空中を漂っていた浮遊霊。つまり、エア魂。仕事を与えられて、今は生き生きしている。
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登場人物紹介

主人公

地獄で入獄拒否され残りの人生を霊として過ごす

主人公を保護観察する死神

雪女。

居酒屋雪ん子の女将。

死神の知り合い。

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