脱水鬼

エピソード文字数 852文字

 地獄には温泉はあるものの、電気もガスも水道も無い。移動は歩き。霊体は食事はとらない。鬼が気晴らしに酒を飲む程度。公害の無い地獄では湧き水で十分だ。

 獄卒にいじめられる亡者にとっては、地獄だろうが、平穏に過ごす俺にとっては極楽だ。いや、退屈すぎる。これはこれで地獄かもしれない。そこで、俺は一大決心をした。地獄でセレブに成ってやる。そう、目指すはヘル・ゲイツ。

 実績が必要だ。俺は、懸衣翁の言葉を思い出した。服が乾かないのは濡れたまま干しているからだ。つまり脱水すれば早く乾くはず。さっそく田舎の古い母屋で眠っている昭和の洗濯機を見に行った。こいつは、ゴムのローラーで服を挟み込み、水を絞っている。
 俺は、丸太を2本用意するとそれを川原に設置した。しかし、年寄りの奪衣婆と懸衣翁ではまわせない。そこで暇な青鬼を使ってまわさせることにした。報酬は酒で十分だった。

 丸太は見事、服の水を搾り取った。青鬼・だつえば初号機の完成である。しかし、数時間すると壊れたとのクレームが入った。行ってみると、折れた丸太とともに固まった数枚の服が散乱していた。
「一枚ずつ入れてください。」
「そんな、ちまちまやってられるかい。」
青鬼はすっかり怒って帰ってしまった。困り果てて、あたりを見回していると大きな樽に濡れた服が突っ込んである。
「あれは、昔の棺桶。灼熱地獄で乾かす分じゃ。」

俺は、ピンと来た。
「時代は、ドラム式!」

 さっそく大きな樽を用意して周りにいくつもの穴を開けた。中心に棒をとおす。横にして心棒を固定すれば回転式の巨大脱水機になる。一度に大量の乾燥ができても、こんな重い物を誰がまわすのか。
「こういう力仕事は赤鬼がいいですよ。それに、やつらは何も考えないから単純作業向きです。」
 同行した死神がささやいた。
 こうして、赤い脱水鬼・だつえば弐号機が初商品として売れた。評判は上々。しかし、残念な点は、地獄には着替えという習慣がない。結局、その後注文が入ることはなかったのである。
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登場人物紹介

主人公

地獄で入獄拒否され残りの人生を霊として過ごす

主人公を保護観察する死神

雪女。

居酒屋雪ん子の女将。

死神の知り合い。

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