その②
文字数 2,977文字
「…は?」
今田は、自分の頭の中で考えていることを綹羅たちに教えた。
「今の人類は、堕落に満ちている。人々は表面上の平和にうつつを抜かし、頑張る努力すらも怠って、抜け殻のように生きている。これでは人類に未来はない」
「だからお前がその未来とやらを作ろうってか?」
「…最後まで聞け、綹羅! 私はこの世界の危険性を排除し、新しい時代を作るキッカケを人類に与えようとしたに過ぎん。新しいリーダーが生まれ、新しい世界が訪れ、新しい時代が来る…。人類は更なる高みにシフトする! 私の席などなくてもいい。新時代に生きる者こそ、世界の支配者に相応しいのだからな! そしてそれを実行するには、神通力が必要不可欠……。だから私はシャイニングアイランドを作り上げ、そして神通力者を集めた。今となっては計画は白紙に戻りつつあるが…」
今田は世界征服など、眼中にはない。ただ、現状の人類は退化していると考えている。だから神通力者の力で、新たな時代を切り開くつもりなのだ。
「それがお前の望みかよ…。ならば俺が止めてみせるぜ!」
それに綹羅は反発する。
「人々が築き上げた世界が間違っているとは、俺には思えない! 俺たちはこの世界で生きるために生まれてきたんだ! だからお前を倒してその計画、塵にしてやる!」
拳を上げ、戦う意思を見せた。すると今田はため息を吐きながら、
「だからイレギュラーだと言ったんだ。そもそも色部の神通力では、記憶を失わずして神通力者になれるわけがない。だがお前は違う。そして世界の在り方に疑問すら抱けない。お前のような退化した脳を持っている輩が存在するから、人類は腐っていく。明日の可能性を模索せず、変わらぬ日常を求めることになる……。それでは人類が知能を持っている意味がない!」
今田も力強く主張すると同時に、綹羅を睨んだ。
「やはりお前は……潰しておくべきだったな」
「そうかい! だったら計画は最初から穴だらけだぜ! 俺は神通力の使い方を見い出して見せる! お前の言う通りにはさせない!」
この言葉を聞くと、何と今田は笑い始めた。
「何がおかしい! 俺に負けるはずがないとでも思っているのか?」
「ふふ、違う。神通力の存在意義も知らないくせによく言う、と思ったのだ。お前は考えたことすらないのか、何故神通力が存在するのかを? まあだから私の理想が理解できんのだろうな?」
「神通力が存在する理由……?」
確かに考えたことは一度もなかった。
「教えてやろう。神通力とは……人を傷つけるためにある力! 神が人に与えた、他人を殺傷するための特別な能力! それが神通力だ」
「………」
これを聞いた綹羅と環は、いかに反論してやろうかと最初は思った。だが、思い出せば自分たちが神通力を使っている場面は、誰かと戦っている時ばかり。
「そう……。他人を襲う時こそ、神通力は真に輝く。それはお前たちも経験済みではないのかね? そして考えたことがあるはずだ、これ以上神通力を使えば相手が死に至るかもしれない、とな。その発想は何も間違ってはいない。神通力の本質は他人を殺すことにあるのだからな」
それが神通力のあるべき姿なのだ。綹羅と環は衝撃を隠せない。否定の言葉すら思いつかないのである。
「どうした、さっきまでの威勢は?」
まるで、これではやり合う意味がないと言わんばかりに今田は肩の力を抜いた。
しかし、綹羅は一歩踏み出す。
「だったら、俺が神通力の真の意味を作り出してやる!」
その勇敢な姿勢を、今田は褒めた。
「そうだよ! 言葉の意味なんて時代の流れでいくらでも変わる! 綹羅、新しい意味を見い出せばいいんだ!」
環の発言にも、拍手を送る今田。
「それはいい。そういう固定概念を打破する姿勢が今の人類には足りないのだ。だから私は…」
「うるさい! いいかお前、俺が勝ったら大人しくここから出て行け! そして二度とこんな悪意に満ちた遊園地なんか作るんじゃないぞ!」
「ふっ。お前が私に勝てるか?」
「やってみないとわかんねえぜ? 案外大したことない神通力かもしれないしな…」
「ほう…」
そして始まる、最後の戦い。太陽は雲を寄せ付けず、この攻防を見守る。
環は二人で協力して戦うべきだと言ったが、彼女のことを傷つけたくない綹羅はそれを却下した。
「俺だけで倒す! 環は見ていてくれ」
彼の意思を尊重するためにも環は見に回った。
「いよいよ始まる…。今田の神通力は一体どんなものなの?」
まず、プレリュードやサンよりもすさまじいもので間違いはないだろう。そう考えると増々予想がつかない。彼らを上回る圧倒的な神通力の正体とは、何なのか。
「じゃあ、行くぜ!」
綹羅は今田の神通力を探るよりも、攻撃することを選んだ。もちろん最初は足元に輪っかを作って転ばせる。地味ではあるものの、結構役に立つ罠だ。
「…む?」
今田はそれに引っ掛かりはしたが、瞬時に足を戻したので転ばなかった。
「小細工か。まあいかなる時も有効ではあるが、私には通用しない!」
それを上から踏みつけた。だが綹羅は一々それに臆しない。
「でいやあああ!」
地面から一気に植物を生やす。一本一本がバラのように鋭いトゲを生やしている茎だ。
「このいばらの壁を越えるには、神通力が絶対に必要! それを使って見せろ! そうすれば自然とその正体がわかる!」
しかし彼の思惑とは裏腹に、今田は動かない。
(何でだ? 植物を破壊できるような神通力ではない……ということか?)
動かないのに、怖いという印象を抱く。
「そこまで見たいのなら、見せてやろうではないか…私の神通力を! そして後悔するがいい!」
今田が手を広げた。そして彼の神通力が始まる。
「ん、何だ?」
その動きは、綹羅の目で追えないことはない。
(もう始まっている…のか? でも何も変化がない…?)
だがそれは違う。既に今田は動き、いばらを遠回りで避けて綹羅の側まで来ている。にもかかわらず、綹羅は、
(まだだ。まだ今田は動かない)
その動きが見えていないのである。
そして次の瞬間、綹羅の体が横に吹っ飛ばされた。何もないと認識していた空間から、一撃が飛んできたのである。
「うわあああ!」
地面に倒れこむ綹羅。ガードできなかった。
「く、くそ! 今のは何だ? 今田のヤツはどうやって……」
そこでセリフが止まる。
(え? さっき地面に倒れたはず……なのにどうして、俺は立っているんだ?)
そう。おかしなことではあるのだが、綹羅は倒れたはずなのに立っている。
「ん、何だ?」
しかも、勝手に口が動く。そしてその視線の先には、いばらの壁があり、その向こうに手を広げた今田の姿が。
混乱している綹羅に対し、また一撃が加えられる。今度は後ろから倒れる。
「んぐ!」
しかし、背中には地面に落ちた衝撃はない。何故ならまた、綹羅は立っているからだ。
(何が起きているんだ? これが今田の神通力なのか? だが、理解できない…!)
それは、見ている環も同じだった。
今田は、自分の頭の中で考えていることを綹羅たちに教えた。
「今の人類は、堕落に満ちている。人々は表面上の平和にうつつを抜かし、頑張る努力すらも怠って、抜け殻のように生きている。これでは人類に未来はない」
「だからお前がその未来とやらを作ろうってか?」
「…最後まで聞け、綹羅! 私はこの世界の危険性を排除し、新しい時代を作るキッカケを人類に与えようとしたに過ぎん。新しいリーダーが生まれ、新しい世界が訪れ、新しい時代が来る…。人類は更なる高みにシフトする! 私の席などなくてもいい。新時代に生きる者こそ、世界の支配者に相応しいのだからな! そしてそれを実行するには、神通力が必要不可欠……。だから私はシャイニングアイランドを作り上げ、そして神通力者を集めた。今となっては計画は白紙に戻りつつあるが…」
今田は世界征服など、眼中にはない。ただ、現状の人類は退化していると考えている。だから神通力者の力で、新たな時代を切り開くつもりなのだ。
「それがお前の望みかよ…。ならば俺が止めてみせるぜ!」
それに綹羅は反発する。
「人々が築き上げた世界が間違っているとは、俺には思えない! 俺たちはこの世界で生きるために生まれてきたんだ! だからお前を倒してその計画、塵にしてやる!」
拳を上げ、戦う意思を見せた。すると今田はため息を吐きながら、
「だからイレギュラーだと言ったんだ。そもそも色部の神通力では、記憶を失わずして神通力者になれるわけがない。だがお前は違う。そして世界の在り方に疑問すら抱けない。お前のような退化した脳を持っている輩が存在するから、人類は腐っていく。明日の可能性を模索せず、変わらぬ日常を求めることになる……。それでは人類が知能を持っている意味がない!」
今田も力強く主張すると同時に、綹羅を睨んだ。
「やはりお前は……潰しておくべきだったな」
「そうかい! だったら計画は最初から穴だらけだぜ! 俺は神通力の使い方を見い出して見せる! お前の言う通りにはさせない!」
この言葉を聞くと、何と今田は笑い始めた。
「何がおかしい! 俺に負けるはずがないとでも思っているのか?」
「ふふ、違う。神通力の存在意義も知らないくせによく言う、と思ったのだ。お前は考えたことすらないのか、何故神通力が存在するのかを? まあだから私の理想が理解できんのだろうな?」
「神通力が存在する理由……?」
確かに考えたことは一度もなかった。
「教えてやろう。神通力とは……人を傷つけるためにある力! 神が人に与えた、他人を殺傷するための特別な能力! それが神通力だ」
「………」
これを聞いた綹羅と環は、いかに反論してやろうかと最初は思った。だが、思い出せば自分たちが神通力を使っている場面は、誰かと戦っている時ばかり。
「そう……。他人を襲う時こそ、神通力は真に輝く。それはお前たちも経験済みではないのかね? そして考えたことがあるはずだ、これ以上神通力を使えば相手が死に至るかもしれない、とな。その発想は何も間違ってはいない。神通力の本質は他人を殺すことにあるのだからな」
それが神通力のあるべき姿なのだ。綹羅と環は衝撃を隠せない。否定の言葉すら思いつかないのである。
「どうした、さっきまでの威勢は?」
まるで、これではやり合う意味がないと言わんばかりに今田は肩の力を抜いた。
しかし、綹羅は一歩踏み出す。
「だったら、俺が神通力の真の意味を作り出してやる!」
その勇敢な姿勢を、今田は褒めた。
「そうだよ! 言葉の意味なんて時代の流れでいくらでも変わる! 綹羅、新しい意味を見い出せばいいんだ!」
環の発言にも、拍手を送る今田。
「それはいい。そういう固定概念を打破する姿勢が今の人類には足りないのだ。だから私は…」
「うるさい! いいかお前、俺が勝ったら大人しくここから出て行け! そして二度とこんな悪意に満ちた遊園地なんか作るんじゃないぞ!」
「ふっ。お前が私に勝てるか?」
「やってみないとわかんねえぜ? 案外大したことない神通力かもしれないしな…」
「ほう…」
そして始まる、最後の戦い。太陽は雲を寄せ付けず、この攻防を見守る。
環は二人で協力して戦うべきだと言ったが、彼女のことを傷つけたくない綹羅はそれを却下した。
「俺だけで倒す! 環は見ていてくれ」
彼の意思を尊重するためにも環は見に回った。
「いよいよ始まる…。今田の神通力は一体どんなものなの?」
まず、プレリュードやサンよりもすさまじいもので間違いはないだろう。そう考えると増々予想がつかない。彼らを上回る圧倒的な神通力の正体とは、何なのか。
「じゃあ、行くぜ!」
綹羅は今田の神通力を探るよりも、攻撃することを選んだ。もちろん最初は足元に輪っかを作って転ばせる。地味ではあるものの、結構役に立つ罠だ。
「…む?」
今田はそれに引っ掛かりはしたが、瞬時に足を戻したので転ばなかった。
「小細工か。まあいかなる時も有効ではあるが、私には通用しない!」
それを上から踏みつけた。だが綹羅は一々それに臆しない。
「でいやあああ!」
地面から一気に植物を生やす。一本一本がバラのように鋭いトゲを生やしている茎だ。
「このいばらの壁を越えるには、神通力が絶対に必要! それを使って見せろ! そうすれば自然とその正体がわかる!」
しかし彼の思惑とは裏腹に、今田は動かない。
(何でだ? 植物を破壊できるような神通力ではない……ということか?)
動かないのに、怖いという印象を抱く。
「そこまで見たいのなら、見せてやろうではないか…私の神通力を! そして後悔するがいい!」
今田が手を広げた。そして彼の神通力が始まる。
「ん、何だ?」
その動きは、綹羅の目で追えないことはない。
(もう始まっている…のか? でも何も変化がない…?)
だがそれは違う。既に今田は動き、いばらを遠回りで避けて綹羅の側まで来ている。にもかかわらず、綹羅は、
(まだだ。まだ今田は動かない)
その動きが見えていないのである。
そして次の瞬間、綹羅の体が横に吹っ飛ばされた。何もないと認識していた空間から、一撃が飛んできたのである。
「うわあああ!」
地面に倒れこむ綹羅。ガードできなかった。
「く、くそ! 今のは何だ? 今田のヤツはどうやって……」
そこでセリフが止まる。
(え? さっき地面に倒れたはず……なのにどうして、俺は立っているんだ?)
そう。おかしなことではあるのだが、綹羅は倒れたはずなのに立っている。
「ん、何だ?」
しかも、勝手に口が動く。そしてその視線の先には、いばらの壁があり、その向こうに手を広げた今田の姿が。
混乱している綹羅に対し、また一撃が加えられる。今度は後ろから倒れる。
「んぐ!」
しかし、背中には地面に落ちた衝撃はない。何故ならまた、綹羅は立っているからだ。
(何が起きているんだ? これが今田の神通力なのか? だが、理解できない…!)
それは、見ている環も同じだった。