その③

文字数 2,186文字

 綹羅の了承を得れたので、美織は少しも躊躇いもせずに綹羅を直希に向かって撃ち出した。

「おおおおおおおい! おいおい! 作戦ってこれかよ!」

 だが、良い手でもある。勢いよく綹羅の体は直希に向かって飛ぶ。

(確か、アイツに向けなければいいんだろ…?)

 そして直希とぶつかるまでの短い間で、綹羅は考える。どうすれば直希に植物による攻撃を届かせることができるか。

(まあ、これしかない!)

 直希は、飛んで来る綹羅の体を受け止めるつもりだ。

「さあ来るか! 逆に捕まえてやろう!」

 しかし、その目論見は崩れることになる。
 彼に綹羅の体がぶつかった。その時直希は、衝撃は殺せないので少し後ろに下がるだろうが、でも綹羅の突撃は受け止められると思った。のだが、綹羅がぶつかって押されるとすぐに、背中が何かに衝突する。

「っぶ!」

 それは、綹羅が生やした大木。これを見越して綹羅が既に用意していたのだ。

「お前に神通力を向けなければいいんだろう? 俺は、観賞用に木を生やしたんだぜ? それは無効にはできないよな!」

 結構な一撃であるはずだが、まだ直希は倒れない。

「や、やってくれるじゃないか…!」

 綹羅は思った。今の直希はまだ、全身に痛みが走っていて思うように動けないはず。ならば今がチャンス。自分の肩に葉っぱを生やすと光合成をしながら直希に殴り掛かる。

「残念だけど、その手には乗らない!」

 超至近距離での一撃。普通なら防ぐことで精一杯だろう。だが直希はそれを避けた。

「なにぃ!」

 そしてジャンプすると、その窮地を抜け出した。

「おかしい! 今の直希には、そんなことはできないはず! なのにどうして!」
「危ないところだったよ…。果叶の神通力を使ってなければ、やられていた!」
「何だって!」

 そう。直希は事前にコピーしておいた遥の神通力を捨て、そして今気を失っている果叶の神通力をコピーして使ったのだ。綹羅は光合成でエネルギーを得ていたために、自分の体の動きが鈍くなったことに気づけなかった。

「直希、動かないで。もう遅いわ…」

 美織がそう言って、直希に石を向けている。

「もう、無意味だよ!」

 だが、美織がそれを撃ち出すよりも速く直希は動いた。美織に対しても神通力を使ったのだ。下がった二人分の身体能力を加算された直希は、美織が撃ち出す小道具をことごとくかわす。

「やっぱり君は、いくら天秤にかけたって僕とは釣り合わないんだよ! 美織!」

 接近して、拳を構えた。

「く………」

 美織は覚悟した。
 だが、その一撃は彼女を襲わなかった。

「う、うがががが…」

 美織が直希の方を見ると、植物のつるに絡まって動けていない。

「直希! 遥の神通力は捨てたんだよな? じゃあ俺の神通力を使いたい放題だぜ!」

 綹羅だ。瞬時に地面から、つるを伸ばした。そして直希の体を絡めとったのである。今の直希はいつも以上の身体能力を有しているが、美織に接近したら動きは単純で、読めないことはないのだ。

「やれ、美織! くらわせろ!」

 そして美織は迷わない。この戦いに終止符を打つ。だが手元には武器にできそうな物はない。綹羅に頼んで硬い果実をもらうという手もあるのだが、他人の手をこれ以上借りたくない。直希と自分との因縁は、自分で着ける。
 彼女の取った行動は単純だった。つるに絡まって動けない直希を、自分の神通力で撃ち出したのだ。高威力だったので、つるは千切れて彼の体は美織の前方に吹っ飛ぶ。

「うおおああああ!」

 美織としては、ものすごい衝撃で地面に叩きつけるか、それとも園内のオブジェにぶつけてしまえばいいと思っていた。だが直希の体は、射出してすぐに街路灯にぶつかった。

「がぶふふうううう!」

 凄まじい一撃だったのだろう。彼は起き上がれない。

「こ、この……!」

 だがしぶとく、まだ意識も飛んでいない。彼は地面に手を当てると、そこから植物を生み出した。最後の最後で綹羅の神通力をコピーしたのだ。
 しかし、その時。

「あ、危ない! 直希、避けろ!」

 敵であるはずの綹羅が叫んだ。

「うるさい……。ここで君らを始末してや……」

 直希はそれ以上喋れなかった。シャイニングアイランドの街路灯はデザイン性を追求してあり、通常のそれよりも大きくそして重い。それが彼の頭に降って来たのだ。下に気を取られていた直希は気づけず、しかも綹羅の忠告も無視した。なので、避けようがない。

「直希…!」

 美織が叫んだ時には、既に彼の頭部は押し潰されていた。

 美織は、もう動かない直希の体に駆け寄る。

「直希………」

 彼女の目から、涙が流れ出た。

「こうなるとは、思ってなかったの…。あなたの言葉は昔は、とても心地よく胸に響いたのに…。私たち、どこで道を間違えちゃったんだろう…」

 悲しみに暮れるのは、美織だけじゃない。綹羅もだ。

「まさか事故とは言え、本当に死ぬなんて……。美織、お前のせいじゃないよ」
「………そうね」

 美織はそうとだけ綹羅に返した。直後に、背後から殺気を感じる。

「ぐあ?」

 振り向くのが、遅かった。と言うよりも動きが鈍くなっている。
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