その⑦
文字数 3,243文字
綹羅が行うことはシンプル。植物を生やして百深を追い詰めるだけだ。一方の百深は、
「そう思っているなら、残念な脳みそしか持ってないのね!」
負けじと反発した。
「ならやってみろよ! 知ってるぞ、できないんだろ!」
生い茂る植物が、百深に迫る。彼女はそれを何と、ひらりとかわす。まるで蝶のような滑らかな動きだ。植物のつるや根が伸びる先を完全に読み切っており、一本も彼女には届かない。
「し、しまった!」
あっという間に綹羅の前に戻ってきた百深は、彼に拳を振った。
(うおおおおお!)
それを綹羅は、間一髪避ける。当たるとまた、激痛が襲って来る攻撃。くらえば体力をかなりえぐられる。
「チッ!」
今度は綹羅がキックを仕掛けた。それを百深は腕でガードする。その速さは平凡だ。
(果叶と違って身体能力が上がっているわけでも、俺のが下がっているわけでもない…。増々わからないぞ、百深の神通力が……)
その場合、ここは攻め続けるのみだ。綹羅は蹴りが駄目なら拳を繰り出した。
「はああ!」
この時、百深もパンチをした。拳と拳がぶつかった瞬間、
「うっぐわあああああ!」
綹羅の手に、激痛が走る。まるで指を全て切り落とされたかのようだ。慌てて拳を開いて指を確認したが、痛みこそあれど一応、動く。折れてはいない。
「そうか! 百深、お前の神通力……痛みを増強させることか! さっきから不自然に感覚神経が悲鳴を上げているのは、お前の仕業だな?」
「ふーん、わかったの? でも今頃理解したからって、優勢になるわけじゃないわね」
百深は自分の神通力がバレたにも関わらず、少しも焦ってはいない。使っていれば、いつかは発覚する。そういう発想なのだ。
綹羅は距離を取るために後ろにジャンプした。近づいて戦うには、百深の神通力は厄介すぎる。しかしそんな魂胆をお見通しと言わんばかりに、百深は距離を詰めてくる。
(不意打ちするか…?)
彼の心は今、揺れている。手のひらから植物を伸ばせば、流石に驚いて百深の動きが止まるかもしれない。しかしそれにはリスクが大きすぎるのだ。体から植物を生やした場合、それが千切られでもしたら、痛みは自分に跳ね返ってくる。その痛みも倍増させられたら…。そう考えると、とてもじゃないが動けない。
「どうだ!」
悩んだ結果、綹羅は違う方法を採用した。てを振り上げて、自分の足元から大木を成長させた。メキメキと舗装を突き破って伸びる木は、百深の動きを止め…なかった。
「邪魔よ!」
その一言と同時に、百深は手刀で木を切り倒した。
「そう来るのかよ…」
倒木させようにも、十分に育つ前に切られたのでできない。そして百深は自分が切り落とした樹木を持ち上げて、振り回す。
「どうよ、綹羅!」
「うげー! こんなことまで…!」
予想外の行動に、綹羅は驚いてしまって転んで尻餅をついた。その時、樹木が頭をかすめた。もし転んでいなければ、相当なダメージを負っていた。そう思うと冷や汗が止まらない。
「フン、綹羅! 私の仲間、『太陽の眷属』を殺した罪は……死をもって償うことね!」
大木と共に百深はそういう言葉を投げつける。
「当たるかよ!」
それを綹羅は避ける。しかもさっきとは逆に、彼の方から距離を詰めていくのだ。既に綹羅の頭には、新たな作戦が出来上がっている。
「行くぞ、百深ぃいいいいいい!」
そしてすれ違うと同時に、百深の肩に攻撃した。
「まさか……私が神通力で自爆するとでも思った? 残念だけど、自分が感じる痛みは上がらない!」
だから彼女はにとって今の綹羅の一手は、完全に無駄である。
「お前にとっては、意味がないかもしれない。けど俺にとっては重要なんだぜ!」
その肩から、植物が芽生えた。
「これは…!」
綹羅は生物相手なら、触ればそこから植物を生やさせることが可能。そしてこれを引っこ抜こうとすると、ダメージは生えている者に返る。だから百深はこれを千切れない。そうこうしている間に、ドンドン伸びていく。
「で、でも! 私の神通力は私を襲わないわ。それを知ってて何をやろうっての?」
「それを今から教えてやるぜ!」
綹羅は迷わない。百深の肩から伸びたつるを自分の方に伸ばし。それを掴んだ。そして手繰り寄せることで一気に近づいて、もう一発をくらわせようとする。
「そっちから来るのなら…いいわ! 痛みを最大限まで増加させる! そのショックに耐えられるかしら!」
百深も最後の手段に出る。今、彼女の神通力は最大限になっている。今の発言は比喩ではなく、本当にショック死する可能性があるのだ。
だが、綹羅は躊躇わない。自分の背中に葉を生やすと光合成をし、力を蓄える。そしてつるを振り回す。
「な、こんなことを…!」
普通なら、百深は抗えるだろう。だが光合成をしていることで、それはできない。綹羅はパワーアップしており、それを百深は覆せないのだ。
「きゃああああああ!」
グルグル回して、そしてフルスイングをして百深を飛ばした。
「まだだ!」
飛んでいる百深の体を綹羅は追う。最後の一撃をくらわせるのだ。
「こ、この…」
百深は着地にこそ成功したものの、フラフラな足取りだ。綹羅はジャンプして彼女の肩から生えるつるをもう一度掴んだ。今度は引っ張って千切るのだ。
「いたたたたたたたあっ!」
結構な痛みが百深を襲う。
「で、でも!」
この時百深は痛みに襲われながら、自分のつるを手繰り寄せれば綹羅に近づけると思っていた。そして実行しようとした、その時。足が動かないことに気がついた。
「既に! 生やしておいたぜ…根をな! これでお前の体は地面に固定され、俺はこのつるを引き千切れるわけだ。お前こそ、痛みに耐えられるかな…?」
グイっと引っ張る。するとつるはブチっと切れた。
「うおお、おおお…」
血管や神経が千切れたかの感覚を百深は味わい、そして耐え切れずその場に倒れた。
「よ、よし! 倒した!」
もちろん、今の一撃で死に至るはずがない。だから綹羅は彼女に近づいて、そして手を差し伸べようとした。
「百深…人は誰でも道を間違えるさ。常に正しい方向に歩ける人なんていない。だから今なら、やり直せる! 一緒にシャイニングアイランドと戦おうぜ!」
すると、直後に百深は立ち上がった。
「うるさい! 誰があんたの言葉を聞くもんですか!」
「お、おい……! 百深、今のは完全に勝負あっただろう?」
それは百深もわかっている。わかっているからこそ、
「これでお終いね……。私たち『太陽の眷属』は、太陽の中に消える…」
自分の首を鋭く伸ばした指で掻っ切ったのだ。
「ば、馬鹿野郎!」
綹羅が手を伸ばした。今なら植物を生やして、出血部位を押さえて止血できるかもしれない。だが、百深の体は綹羅の手が届くよりも速く、地面に落ちた。
「な、何でこんな……。わざわざ自殺する意味なんて、ないだろう! 何でこんなことを! 意味があるとは思えない!」
綹羅の叫び声は、空しく空に響いた。
百深は、裏切った自分たちが綹羅の元に戻れるはずがないことを知っていたのだ。そういう覚悟を背負ってシャイニングアイランドにつくことを決めた。そして裏切りの代償は、命を失うことだった。それほどに重いのである。
「綹羅……」
環は彼の側まで来たが、かけるべき言葉が見当たらない。
「誰か、答えろ! 何で死なないといけないんだ! 神通力者は人を傷つけるために生まれるのか? 畜生おおおおおお!」
悔しさのあまり何度も何度も、地面に拳を叩きつける。
園内を照らす太陽は、『太陽の眷属』の消滅と共に雲の後ろに隠れる。
「そう思っているなら、残念な脳みそしか持ってないのね!」
負けじと反発した。
「ならやってみろよ! 知ってるぞ、できないんだろ!」
生い茂る植物が、百深に迫る。彼女はそれを何と、ひらりとかわす。まるで蝶のような滑らかな動きだ。植物のつるや根が伸びる先を完全に読み切っており、一本も彼女には届かない。
「し、しまった!」
あっという間に綹羅の前に戻ってきた百深は、彼に拳を振った。
(うおおおおお!)
それを綹羅は、間一髪避ける。当たるとまた、激痛が襲って来る攻撃。くらえば体力をかなりえぐられる。
「チッ!」
今度は綹羅がキックを仕掛けた。それを百深は腕でガードする。その速さは平凡だ。
(果叶と違って身体能力が上がっているわけでも、俺のが下がっているわけでもない…。増々わからないぞ、百深の神通力が……)
その場合、ここは攻め続けるのみだ。綹羅は蹴りが駄目なら拳を繰り出した。
「はああ!」
この時、百深もパンチをした。拳と拳がぶつかった瞬間、
「うっぐわあああああ!」
綹羅の手に、激痛が走る。まるで指を全て切り落とされたかのようだ。慌てて拳を開いて指を確認したが、痛みこそあれど一応、動く。折れてはいない。
「そうか! 百深、お前の神通力……痛みを増強させることか! さっきから不自然に感覚神経が悲鳴を上げているのは、お前の仕業だな?」
「ふーん、わかったの? でも今頃理解したからって、優勢になるわけじゃないわね」
百深は自分の神通力がバレたにも関わらず、少しも焦ってはいない。使っていれば、いつかは発覚する。そういう発想なのだ。
綹羅は距離を取るために後ろにジャンプした。近づいて戦うには、百深の神通力は厄介すぎる。しかしそんな魂胆をお見通しと言わんばかりに、百深は距離を詰めてくる。
(不意打ちするか…?)
彼の心は今、揺れている。手のひらから植物を伸ばせば、流石に驚いて百深の動きが止まるかもしれない。しかしそれにはリスクが大きすぎるのだ。体から植物を生やした場合、それが千切られでもしたら、痛みは自分に跳ね返ってくる。その痛みも倍増させられたら…。そう考えると、とてもじゃないが動けない。
「どうだ!」
悩んだ結果、綹羅は違う方法を採用した。てを振り上げて、自分の足元から大木を成長させた。メキメキと舗装を突き破って伸びる木は、百深の動きを止め…なかった。
「邪魔よ!」
その一言と同時に、百深は手刀で木を切り倒した。
「そう来るのかよ…」
倒木させようにも、十分に育つ前に切られたのでできない。そして百深は自分が切り落とした樹木を持ち上げて、振り回す。
「どうよ、綹羅!」
「うげー! こんなことまで…!」
予想外の行動に、綹羅は驚いてしまって転んで尻餅をついた。その時、樹木が頭をかすめた。もし転んでいなければ、相当なダメージを負っていた。そう思うと冷や汗が止まらない。
「フン、綹羅! 私の仲間、『太陽の眷属』を殺した罪は……死をもって償うことね!」
大木と共に百深はそういう言葉を投げつける。
「当たるかよ!」
それを綹羅は避ける。しかもさっきとは逆に、彼の方から距離を詰めていくのだ。既に綹羅の頭には、新たな作戦が出来上がっている。
「行くぞ、百深ぃいいいいいい!」
そしてすれ違うと同時に、百深の肩に攻撃した。
「まさか……私が神通力で自爆するとでも思った? 残念だけど、自分が感じる痛みは上がらない!」
だから彼女はにとって今の綹羅の一手は、完全に無駄である。
「お前にとっては、意味がないかもしれない。けど俺にとっては重要なんだぜ!」
その肩から、植物が芽生えた。
「これは…!」
綹羅は生物相手なら、触ればそこから植物を生やさせることが可能。そしてこれを引っこ抜こうとすると、ダメージは生えている者に返る。だから百深はこれを千切れない。そうこうしている間に、ドンドン伸びていく。
「で、でも! 私の神通力は私を襲わないわ。それを知ってて何をやろうっての?」
「それを今から教えてやるぜ!」
綹羅は迷わない。百深の肩から伸びたつるを自分の方に伸ばし。それを掴んだ。そして手繰り寄せることで一気に近づいて、もう一発をくらわせようとする。
「そっちから来るのなら…いいわ! 痛みを最大限まで増加させる! そのショックに耐えられるかしら!」
百深も最後の手段に出る。今、彼女の神通力は最大限になっている。今の発言は比喩ではなく、本当にショック死する可能性があるのだ。
だが、綹羅は躊躇わない。自分の背中に葉を生やすと光合成をし、力を蓄える。そしてつるを振り回す。
「な、こんなことを…!」
普通なら、百深は抗えるだろう。だが光合成をしていることで、それはできない。綹羅はパワーアップしており、それを百深は覆せないのだ。
「きゃああああああ!」
グルグル回して、そしてフルスイングをして百深を飛ばした。
「まだだ!」
飛んでいる百深の体を綹羅は追う。最後の一撃をくらわせるのだ。
「こ、この…」
百深は着地にこそ成功したものの、フラフラな足取りだ。綹羅はジャンプして彼女の肩から生えるつるをもう一度掴んだ。今度は引っ張って千切るのだ。
「いたたたたたたたあっ!」
結構な痛みが百深を襲う。
「で、でも!」
この時百深は痛みに襲われながら、自分のつるを手繰り寄せれば綹羅に近づけると思っていた。そして実行しようとした、その時。足が動かないことに気がついた。
「既に! 生やしておいたぜ…根をな! これでお前の体は地面に固定され、俺はこのつるを引き千切れるわけだ。お前こそ、痛みに耐えられるかな…?」
グイっと引っ張る。するとつるはブチっと切れた。
「うおお、おおお…」
血管や神経が千切れたかの感覚を百深は味わい、そして耐え切れずその場に倒れた。
「よ、よし! 倒した!」
もちろん、今の一撃で死に至るはずがない。だから綹羅は彼女に近づいて、そして手を差し伸べようとした。
「百深…人は誰でも道を間違えるさ。常に正しい方向に歩ける人なんていない。だから今なら、やり直せる! 一緒にシャイニングアイランドと戦おうぜ!」
すると、直後に百深は立ち上がった。
「うるさい! 誰があんたの言葉を聞くもんですか!」
「お、おい……! 百深、今のは完全に勝負あっただろう?」
それは百深もわかっている。わかっているからこそ、
「これでお終いね……。私たち『太陽の眷属』は、太陽の中に消える…」
自分の首を鋭く伸ばした指で掻っ切ったのだ。
「ば、馬鹿野郎!」
綹羅が手を伸ばした。今なら植物を生やして、出血部位を押さえて止血できるかもしれない。だが、百深の体は綹羅の手が届くよりも速く、地面に落ちた。
「な、何でこんな……。わざわざ自殺する意味なんて、ないだろう! 何でこんなことを! 意味があるとは思えない!」
綹羅の叫び声は、空しく空に響いた。
百深は、裏切った自分たちが綹羅の元に戻れるはずがないことを知っていたのだ。そういう覚悟を背負ってシャイニングアイランドにつくことを決めた。そして裏切りの代償は、命を失うことだった。それほどに重いのである。
「綹羅……」
環は彼の側まで来たが、かけるべき言葉が見当たらない。
「誰か、答えろ! 何で死なないといけないんだ! 神通力者は人を傷つけるために生まれるのか? 畜生おおおおおお!」
悔しさのあまり何度も何度も、地面に拳を叩きつける。
園内を照らす太陽は、『太陽の眷属』の消滅と共に雲の後ろに隠れる。