その③

文字数 2,802文字

 勝負再会。セレナーデは絢嘉に狙いを定めて、氷柱を飛ばした。

「も~。そんなの通じないよ?」

 彼女は器用に体を動かし、全て避ける。そしてセレナーデに近づいてジャンプし、パンチを繰り出した。

「…!」

 だが、それはセレナーデの生み出した氷の塊に阻まれた。それが絢嘉の拳に耐え切れず砕け散ると、

「そっちか! ならこれはどう?」

 瞬時に絢嘉の体から、煙が放出される。人体にそれほど有害ではない煙だが、視界を遮るのにはかなり有効。すぐに二人の体を煙が包み込んだ。

「そう来るなら…!」

 セレナーデはセレナーデで、氷柱を無作為に出鱈目な方向に撃ちまくる。どれか一つでも当たればいいという発想だ。

「あわぁっ!」

 そして功を奏したらしく、絢嘉の悲鳴が煙を切り裂いて聞こえた。

「手応え、あり…!」

 思わずニヤリとしてセレナーデは声のする方へ歩き、煙から抜け出した。そこには、怪我をして膝から血を流す絢嘉の姿が。相当痛んでいるらしく、両手で出血部位を押さえている。これでは動けないだろう。

「何も考えずに突っ込むからそうなるのよ……。少しは戦術を考えなさい…!」

 そして大きな氷塊を絢嘉の頭上に生み出し、押し潰そうとする。が、その時、

「とりゃあああ!」

 なんと絢嘉がジャンプし、一気にセレナーデの側まで来る。

「えぇ……?」

 これはセレナーデも計算外。動けないと思っていた相手が、突然機敏な動きを見せたのだ。そして拳を二発、三発とセレナーデの顔に打ち込む。最後に腹に思いっきりキックをした。

「どうよ? これでも何も考えてないって言える?」

 怪我しているというのは、嘘だ。絢嘉は氷柱を全て避けていた。それも当然。自分の生み出した煙の中なら、物の動きは手に取るようにわかる。そしてセレナーデを油断させるためにワザと膝を自分で傷つけ血を流し、痛がっているフリをしていたのだ。

 絢嘉の策にまんまとはまったセレナーデは吹っ飛び、地面に落ちた。

「うう……」

 動けそうにない。最後の一撃がデカかった。

「さあて、どうしようかな?」

 とりあえず陵湖の意見を待つことにした。
 陵湖とボレロは火花を散らしながら戦っている。

「ぐおおおおおお!」

 ボレロの拳が、炎に包まれている。その状態で陵湖に殴り掛かる。しかし陵湖も別次元から消火器を取り出して、彼に吹きかける。

「コイツ…! 武器に関しては自由自在か!」

 改めてその神通力の厄介さを痛感した。今度はボレロ、自分の足を炎で包んだ。そして陵湖に蹴りを入れようと迫る。

「それでどうするつもり?」

 対する陵湖は、完全にボレロの行動を見切っている。ポケットに手を入れてもう一度銃を取り出した。今度のは水鉄砲。先ほど、弾丸はボレロの炎を貫けないことがわかったために、火を消せるであろう水で勝負する。

「おらおらああああ!」

 ボレロは止まらない。いや、水鉄砲程度の水では彼の炎を消せないのだ。彼の狙いは陵湖に間違いないが、正確にはその手に持っているビニール袋。

(あれがあると、こっちの遠距離攻撃は全部別次元に送られて何も届かない! まずはあの袋を取り上げるか、蒸発させてやる!)

 その意気込みはとてもいい。陵湖の神通力では、生き物を別次元に送ることもこちらに持って来ることもできない。それはボレロは知らない。だから袋さえなければ攻撃は格段に届きやすくなる。おまけにボレロの体を別次元に送られることもないのだ。

 だが、今回に関しては陵湖の方が一枚上手だった。

「フン!」

 急に、熱さに耐え切れなくなったのか、陵湖は手を放した。ビニール袋が風に吹かれて舞う。それを見るとボレロは攻撃を中断。

「馬鹿め!」

 しめたと思い、ボレロは炎を焚き上げる。それによって生じる上昇気流が、袋を天高く舞い揚げる。

「これでお前は、俺の攻撃を防げなくなったわけだ!」
「そうかしら?」

 しかし、陵湖も自信満々なのだ。

「思い知れ、この大馬鹿野郎め!」

 バスケットボール大の火球を手と手の間で生み出し、陵湖に照準を合わせて撃ち出そうとしたまさにその時のこと。
 突然、バケツをひっくり返したかのような大雨…いや滝がボレロを襲った。

「ん何だこれは…!」

 一瞬で全身がずぶ濡れになると同時に、用意した火球も消えてしまう。彼が上を見ると、どうやら水はさっき上に吹き飛ばしたビニール袋から流れ出ていた。

「どうしたの? まさか私が無意味に手放したとでも思った? んなわけないでしょ!」

 そして、さらに陵湖がポケットから取り出したものはやはり拳銃。ボレロ目掛けて撃った。ずぶ濡れのボレロは新たに炎を起こせない。

「うがああ!」

 右胸に命中し、撃ち抜いた。激痛でボレロの体は崩れる。

 陵湖が絢嘉の方を見ると、彼女もセレナーデを制していた。

「よし、これでいいわ!」

 ボレロの体を引っ張ってセレナーデの側に寄せると、陵湖は縄をポケットから取り出して二人を縛った。

「これで動けないね、ざんねーん!」

 これで逃げられる心配は消えた。

「大丈夫、ボレロ……?」

 背中合わせになっているボレロにセレナーデが聞くと、

「ああ、ちょっと胸を撃ち抜かれただけだ。痛むが死にはしない」

 しかし、二人は敗北したのだ。もう抗える力が残っていないので、二人の体を縛る縄を引きちぎることもできない。

「さて、教えてもらおうかしら…? 答えなさい、環はどこにいるの?」
「早く言った方がいいと絢嘉は思うよー? 陵湖ったら絶対に容赦しない性格だから! あ、でも、絢嘉もかも!」

 先に口を開けたのは、ボレロの方だった。

「俺たちの身の心配をする前に、自分たちのことを考えたらどうだ? もうすぐ『太陽の眷属』が牙をむく! それにお前たちは、耐えられないだろう!」
「ソ、『太陽の眷属』…? 何なのそれは?」

 聞きなれない単語が飛び出したので陵湖はボレロに聞いた。

「知るかよ! 俺もセレナーデも、環がどこに運ばれたかは知らねえ。だが、もう既に園内に『太陽の眷属』はいる! 動き出す瞬間を、今か今かと待っているんだぜ! お前たちはお終いさ、ハーッハハハハハ…」

 答えになっていなかったので、絢嘉がボレロの顔面を引っ叩いた。すると彼は黙った。

「どうする陵湖?」
「仕方ないわね…。ここに二人は置いておきましょう。他をあたるわよ」

 とりあえず仲間と合流することにした陵湖と絢嘉。だがその心の中には、『太陽の眷属』という謎の集団の存在が、どうにも引っかかって取れない。

(そのような輩が、園内にいる? だとしたら、なおさら早く合流した方がいいわね…)
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