その③
文字数 4,145文字
分かれた陵湖たちは、憩いの広場まで百深たちを追いかけた。
「待ってよ~! もう、どうして逃げるの!」
「私に聞かないで!」
気がつけば、周りに一般客がほとんどいない。お昼時なのでショッピングコーナーやレストラン黒点にみんな向かったのだろう。おまけにパレードも見れるとなれば、行かない手はない。
「もういいわね…」
急に百深が振り向く。
「無事だったの、百深! 心配したわよ、もう!」
「ここまで来れば、泰三や勇宇が応援に来ることもないわ…。じっくりと料理できる!」
「ねえ、他のみんなは?」
「見てなさい…。これが神通力者の正しい生き方! 瞼に焼き付けてやるわ!」
話がかみ合わないので、陵湖と絢嘉は顔を合わせて首を傾げた。
「……ちょっと」
美織が二人の服を引っ張った。
「どうしたの?」
聞いても答えない。ただ、真っ直ぐと百深とは別の方向を見ている。
「あ、果叶に直希も!」
それだけではない。背後で足音が聞こえたので振り向くと、遥の姿もあるのだ。
「………変ね」
「確かに。絢嘉もそう思う…」
ここで三人は、違和感を抱く。現状は百深たちを発見したと言うより、合流できたと言うより、囲まれたと言った方が正しいのだ。だが、自分たちを囲んでいるのは、昨日はぐれるまで仲間だった人間。だから変な感覚に陥る。
三人を代表し、陵湖が言う。
「心配させておいて、謝る気もないの? あなたたち?」
すると、
「陵湖! 私たちはね……『太陽の眷属』! シャイニングアイランドの神通力者!」
「何よ……それは…!」
美織は目玉が飛び出る勢いで驚いた。一方、横にいた絢嘉は、
「ふーん……」
冷静。これには理由がある。
「果叶たちって、前にここに来たことあるんだよね? でも、『歌の守護者』の話どころか、襲われたっていうことすら聞いてないよ? おかしいよね、神通力者が来たらシャイニングアイランドは必ず動くはずなのに。果叶たちはスルーされたの? 昨日十人で行ったら無視もされなかったって言うのに?」
妙に冴えている絢嘉。
「確かに、それは不自然ね……。しかもその時のメンバーが昨日、揃っていなくなったとなると…いよいよ無関係とは考えられないわ」
陵湖もすぐに納得する。
「じゃあ、あんたたちはもう敵なんだ……。本当に最ッ低…」
美織も現実を受け入れずにはいられない。
「違うよ? もう、じゃないの。最初から、だよ?」
ここで百深は、以前シャイニングアイランドに行った際に何があったのかを説明した。
百深らは『歌の守護者』と少しだけ交戦した。だがすぐにその戦いは終わる。それは彼女たちが『歌の守護者』よりも優れていたからではない。
「そういう生き方があるなら、自分たちにも教えて欲しい」
戦う意思がないことを教えると同時に、自分たちを仲間に加えて欲しいと言ったのだ。シャイニングアイランドとしても、神通力者が増えることは嬉しいこと。だから『歌の守護者』は彼女らを、色部の前に案内した。
「う~む。いきなり言われてもなあ。だが神通力者なら無視はできない。しかしだ、信用するかどうかはちょっと置いておいて……そうだな……では、名前を与えよう。シャイニングアイランドに従う者…『太陽の眷属』! 決まりだ! これに文句があるなら、君らの主張は認めないが?」
異議を唱えなかった百深たち。そして仮にシャイニングアイランドに所属することになったのである。
その後は、日常生活に戻された。色部としては、普通の社会に溶け込む彼女らはスパイとして利用できる、だからすぐにシャイニングアイランドに閉じ込めない、そういう発想だった。そしてそれが功を奏した。綹羅たちが乗り込んで来た時、『歌の守護者』は壊滅的な被害を受ける前に、対処できたのだ。
正確には昨日の綹羅たちの襲来時、急だったので百深たちはシャイニングアイランドに連絡を入れることができなかった。しかし、既に顔を合わせていたので、それで色部は事情を察してくれたのである。
その功績が認められ、百深たち『太陽の眷属』は正式にシャイニングアイランドに属する神通力者集団となった。
「これから初仕事ね。私たちのことを知っているあんたらを葬ってしまえば、スパイ活動を再会できるわ!」
百深たちの狙いはそれだ。同じ高校の神通力者を抹殺してしまえば、自分たちが学校に戻っても怪しむ人など誰もいない。以前の生活をしながら、シャイニングアイランドのためになることをすればいいのだ。
「そうはさせない!」
突然の殺人宣告にも怖気づかない陵湖たち。既に迷いを捨てている目だ。
(目の前の四人は、もう仲間なんかじゃない!)
三人とも、同じことを心に抱いた。
意外にも、先陣を切ったのは美織。彼女が懐から小銭を取り出し神通力を使って射出したことで決戦の火蓋が切って落とされたのである。
「ふふ、危ないね?」
狙いは直希だったが、彼も美織に狙われていることに薄々気づいていたので余裕をもって避ける。
「さあ美織! 始めようか…僕と君の関係に、終止符を打とう! 僕の神通力は知っているだろう?」
「……個性がない神通力でしょう…」
「相変わらず酷い言い方だなぁ」
だが、的を射た表現なのである。
直希はその辺の石ころを拾うと、構えた。するとその石は、凄まじい勢いで美織に向かって飛ぶ。
「どうなっているの?」
陵湖が聞くと、美織は、
「コイツは他人の猿真似しかできないわ」
「惨い言い方だねぇ…? 僕のは言ってしまえば、コピーなんだよ」
直希の神通力は、他人と全く同じ神通力を再現すること。だから昨日はプレリュードの神通力を真似て光弾を撃ち込み、今は美織の神通力をコピーして同じことをやってみせた。
一聞すると便利そうな神通力ではあるが、一度に一つしかコピーできないのがこの神通力の弱点だ。また、コピーした神通力はストックしておくことができないので、使える神通力は常に一つであることも。だからプレリュードの神通力は、今は使えない。
「でもね…十分なんだよ。他人を負かせるのに、僕の神通力はもってこいなんだ。だってそうだろう? 強力な力を何でも使えるんだ! それに美織、君も自分の神通力で死ぬなら文句は言わない、本望だろう?」
「自分の力じゃないくせに随分と偉そうね…」
美織と直希はすぐにでも戦闘を始めようとしている。ここで陵湖は冷静だった。
「ちょっと待ちなさいよ! これじゃあ四対三。不公平じゃない! あんたらに言うのもアレだけど、心は痛まないの?」
百深に文句を言うと、
「じゃあ、私は見ているだけでいいよ? 直希は美織と。後はこっちは果叶と遥。そっちは絢嘉と陵湖で自由に組めば? もっとも頭数だけ互角にしたって私たちは負けないけどさ!」
百深は見に回るつもりだ。
「どうする、陵湖?」
絢嘉が陵湖に相談すると、
「こんな最低なヤツら、ささっと片付けるわよ。果叶と遥の神通力は知らないけど、大丈夫。私たちの敵じゃないわ。私が果叶の相手をするから、絢嘉は遥の方をお願い」
「りょうかーい!」
誰が誰の相手をするのか決まったところで陵湖は美織に、
「これを渡しておくわ」
と、エアガンを一丁渡した。
「ありがとう。有効活用させてもらうわ…」
ただのエアガン程度の威力では、神通力者には傷を与えることすら不可能だろう。だがそれに美織の神通力が加われば話は別。一発のBB弾が、コンクリートを撃ち抜く破壊力となる。
「では、始めますか。手っ取り早くいきましょう」
「かかって来なさいよ果叶!」
陵湖は果叶に向かって駆けた。
「そう来ますか…では!」
そこで果叶は神通力を使う。すると陵湖の足取りが、明らかに遅くなる。
「ん! 今、何を…?」
さっきまでの素早さが完全に死んでいる。しかも逆に、果叶の方は陵湖の目で捉えられないほど速い。あっという間に後ろを取られ、背中に肘鉄を入れられる。
「うぎゃあ!」
かなり痛む。
「遅いですね。そんなんでよく、敵じゃないとか言えますね……呆れます」
これにはカラクリがある。果叶の神通力、それは相手の身体能力を下げて、下がった分だけ自分に加算するというもの。陵湖の動きが急に鈍くなったのはこれが原因である。
この神通力の恐ろしいところは二つ。一つは一度使われたら、果叶と差が完全に開いてしまうために互角に渡り合うのがかなり難しくなるということ。そしてもう一つは、神通力の全工程が不可視…つまり発現を宣言する必要もなければ、具体的に何が起きているのかも相手に教える必要がない。相手からすれば、何をされたのか把握が難しいということ。陵湖のように違和感には気づくが、何が起きているのかはわからないケースがほとんどだ。
「ふん、言う割には強くないじゃない!」
百深はその光景を見ながら言った。もちろん彼女も適当な発想で見学を選んだわけではない。彼女の神通力は、人が感じる痛みを倍増させること。そのターゲットは陵湖、美織、絢嘉の三人。直接戦闘面に活かせないこともないが、自分が必ずしも戦う必要がない神通力なので、発動させて味方を有利にし、それを見ているのだ。
絢嘉も苦戦を強いられている。
「もう! 何よコイツ! 面倒くさいヤツ!」
「うるせえな! ちょっとは黙ってらんねえのか!」
遥は拳を大きく振った。絢嘉が繰り出した煙の中で、正確に。彼の神通力は受動的。
「バーカ! 俺に神通力を向けても無意味だぜ! それは俺の神通力で全て、無効化される! だからお前がいくら煙を焚いても、俺には届かねえよ?」
自分から積極的に使えないが、相手の力を一方的に否定できるのだ。そして無力化した煙を切り裂いて、絢嘉の腹にパンチを入れた。
「あっぐっ!」
もちろん百深の神通力で、感じる痛みは倍。これにはたまらず絢嘉は逃げる。
「待ってよ~! もう、どうして逃げるの!」
「私に聞かないで!」
気がつけば、周りに一般客がほとんどいない。お昼時なのでショッピングコーナーやレストラン黒点にみんな向かったのだろう。おまけにパレードも見れるとなれば、行かない手はない。
「もういいわね…」
急に百深が振り向く。
「無事だったの、百深! 心配したわよ、もう!」
「ここまで来れば、泰三や勇宇が応援に来ることもないわ…。じっくりと料理できる!」
「ねえ、他のみんなは?」
「見てなさい…。これが神通力者の正しい生き方! 瞼に焼き付けてやるわ!」
話がかみ合わないので、陵湖と絢嘉は顔を合わせて首を傾げた。
「……ちょっと」
美織が二人の服を引っ張った。
「どうしたの?」
聞いても答えない。ただ、真っ直ぐと百深とは別の方向を見ている。
「あ、果叶に直希も!」
それだけではない。背後で足音が聞こえたので振り向くと、遥の姿もあるのだ。
「………変ね」
「確かに。絢嘉もそう思う…」
ここで三人は、違和感を抱く。現状は百深たちを発見したと言うより、合流できたと言うより、囲まれたと言った方が正しいのだ。だが、自分たちを囲んでいるのは、昨日はぐれるまで仲間だった人間。だから変な感覚に陥る。
三人を代表し、陵湖が言う。
「心配させておいて、謝る気もないの? あなたたち?」
すると、
「陵湖! 私たちはね……『太陽の眷属』! シャイニングアイランドの神通力者!」
「何よ……それは…!」
美織は目玉が飛び出る勢いで驚いた。一方、横にいた絢嘉は、
「ふーん……」
冷静。これには理由がある。
「果叶たちって、前にここに来たことあるんだよね? でも、『歌の守護者』の話どころか、襲われたっていうことすら聞いてないよ? おかしいよね、神通力者が来たらシャイニングアイランドは必ず動くはずなのに。果叶たちはスルーされたの? 昨日十人で行ったら無視もされなかったって言うのに?」
妙に冴えている絢嘉。
「確かに、それは不自然ね……。しかもその時のメンバーが昨日、揃っていなくなったとなると…いよいよ無関係とは考えられないわ」
陵湖もすぐに納得する。
「じゃあ、あんたたちはもう敵なんだ……。本当に最ッ低…」
美織も現実を受け入れずにはいられない。
「違うよ? もう、じゃないの。最初から、だよ?」
ここで百深は、以前シャイニングアイランドに行った際に何があったのかを説明した。
百深らは『歌の守護者』と少しだけ交戦した。だがすぐにその戦いは終わる。それは彼女たちが『歌の守護者』よりも優れていたからではない。
「そういう生き方があるなら、自分たちにも教えて欲しい」
戦う意思がないことを教えると同時に、自分たちを仲間に加えて欲しいと言ったのだ。シャイニングアイランドとしても、神通力者が増えることは嬉しいこと。だから『歌の守護者』は彼女らを、色部の前に案内した。
「う~む。いきなり言われてもなあ。だが神通力者なら無視はできない。しかしだ、信用するかどうかはちょっと置いておいて……そうだな……では、名前を与えよう。シャイニングアイランドに従う者…『太陽の眷属』! 決まりだ! これに文句があるなら、君らの主張は認めないが?」
異議を唱えなかった百深たち。そして仮にシャイニングアイランドに所属することになったのである。
その後は、日常生活に戻された。色部としては、普通の社会に溶け込む彼女らはスパイとして利用できる、だからすぐにシャイニングアイランドに閉じ込めない、そういう発想だった。そしてそれが功を奏した。綹羅たちが乗り込んで来た時、『歌の守護者』は壊滅的な被害を受ける前に、対処できたのだ。
正確には昨日の綹羅たちの襲来時、急だったので百深たちはシャイニングアイランドに連絡を入れることができなかった。しかし、既に顔を合わせていたので、それで色部は事情を察してくれたのである。
その功績が認められ、百深たち『太陽の眷属』は正式にシャイニングアイランドに属する神通力者集団となった。
「これから初仕事ね。私たちのことを知っているあんたらを葬ってしまえば、スパイ活動を再会できるわ!」
百深たちの狙いはそれだ。同じ高校の神通力者を抹殺してしまえば、自分たちが学校に戻っても怪しむ人など誰もいない。以前の生活をしながら、シャイニングアイランドのためになることをすればいいのだ。
「そうはさせない!」
突然の殺人宣告にも怖気づかない陵湖たち。既に迷いを捨てている目だ。
(目の前の四人は、もう仲間なんかじゃない!)
三人とも、同じことを心に抱いた。
意外にも、先陣を切ったのは美織。彼女が懐から小銭を取り出し神通力を使って射出したことで決戦の火蓋が切って落とされたのである。
「ふふ、危ないね?」
狙いは直希だったが、彼も美織に狙われていることに薄々気づいていたので余裕をもって避ける。
「さあ美織! 始めようか…僕と君の関係に、終止符を打とう! 僕の神通力は知っているだろう?」
「……個性がない神通力でしょう…」
「相変わらず酷い言い方だなぁ」
だが、的を射た表現なのである。
直希はその辺の石ころを拾うと、構えた。するとその石は、凄まじい勢いで美織に向かって飛ぶ。
「どうなっているの?」
陵湖が聞くと、美織は、
「コイツは他人の猿真似しかできないわ」
「惨い言い方だねぇ…? 僕のは言ってしまえば、コピーなんだよ」
直希の神通力は、他人と全く同じ神通力を再現すること。だから昨日はプレリュードの神通力を真似て光弾を撃ち込み、今は美織の神通力をコピーして同じことをやってみせた。
一聞すると便利そうな神通力ではあるが、一度に一つしかコピーできないのがこの神通力の弱点だ。また、コピーした神通力はストックしておくことができないので、使える神通力は常に一つであることも。だからプレリュードの神通力は、今は使えない。
「でもね…十分なんだよ。他人を負かせるのに、僕の神通力はもってこいなんだ。だってそうだろう? 強力な力を何でも使えるんだ! それに美織、君も自分の神通力で死ぬなら文句は言わない、本望だろう?」
「自分の力じゃないくせに随分と偉そうね…」
美織と直希はすぐにでも戦闘を始めようとしている。ここで陵湖は冷静だった。
「ちょっと待ちなさいよ! これじゃあ四対三。不公平じゃない! あんたらに言うのもアレだけど、心は痛まないの?」
百深に文句を言うと、
「じゃあ、私は見ているだけでいいよ? 直希は美織と。後はこっちは果叶と遥。そっちは絢嘉と陵湖で自由に組めば? もっとも頭数だけ互角にしたって私たちは負けないけどさ!」
百深は見に回るつもりだ。
「どうする、陵湖?」
絢嘉が陵湖に相談すると、
「こんな最低なヤツら、ささっと片付けるわよ。果叶と遥の神通力は知らないけど、大丈夫。私たちの敵じゃないわ。私が果叶の相手をするから、絢嘉は遥の方をお願い」
「りょうかーい!」
誰が誰の相手をするのか決まったところで陵湖は美織に、
「これを渡しておくわ」
と、エアガンを一丁渡した。
「ありがとう。有効活用させてもらうわ…」
ただのエアガン程度の威力では、神通力者には傷を与えることすら不可能だろう。だがそれに美織の神通力が加われば話は別。一発のBB弾が、コンクリートを撃ち抜く破壊力となる。
「では、始めますか。手っ取り早くいきましょう」
「かかって来なさいよ果叶!」
陵湖は果叶に向かって駆けた。
「そう来ますか…では!」
そこで果叶は神通力を使う。すると陵湖の足取りが、明らかに遅くなる。
「ん! 今、何を…?」
さっきまでの素早さが完全に死んでいる。しかも逆に、果叶の方は陵湖の目で捉えられないほど速い。あっという間に後ろを取られ、背中に肘鉄を入れられる。
「うぎゃあ!」
かなり痛む。
「遅いですね。そんなんでよく、敵じゃないとか言えますね……呆れます」
これにはカラクリがある。果叶の神通力、それは相手の身体能力を下げて、下がった分だけ自分に加算するというもの。陵湖の動きが急に鈍くなったのはこれが原因である。
この神通力の恐ろしいところは二つ。一つは一度使われたら、果叶と差が完全に開いてしまうために互角に渡り合うのがかなり難しくなるということ。そしてもう一つは、神通力の全工程が不可視…つまり発現を宣言する必要もなければ、具体的に何が起きているのかも相手に教える必要がない。相手からすれば、何をされたのか把握が難しいということ。陵湖のように違和感には気づくが、何が起きているのかはわからないケースがほとんどだ。
「ふん、言う割には強くないじゃない!」
百深はその光景を見ながら言った。もちろん彼女も適当な発想で見学を選んだわけではない。彼女の神通力は、人が感じる痛みを倍増させること。そのターゲットは陵湖、美織、絢嘉の三人。直接戦闘面に活かせないこともないが、自分が必ずしも戦う必要がない神通力なので、発動させて味方を有利にし、それを見ているのだ。
絢嘉も苦戦を強いられている。
「もう! 何よコイツ! 面倒くさいヤツ!」
「うるせえな! ちょっとは黙ってらんねえのか!」
遥は拳を大きく振った。絢嘉が繰り出した煙の中で、正確に。彼の神通力は受動的。
「バーカ! 俺に神通力を向けても無意味だぜ! それは俺の神通力で全て、無効化される! だからお前がいくら煙を焚いても、俺には届かねえよ?」
自分から積極的に使えないが、相手の力を一方的に否定できるのだ。そして無力化した煙を切り裂いて、絢嘉の腹にパンチを入れた。
「あっぐっ!」
もちろん百深の神通力で、感じる痛みは倍。これにはたまらず絢嘉は逃げる。