その②

文字数 2,348文字

 シャイニングアイランドは客を選ばない。だから泰三たちはすんなりと入ることができた。

「さて、ここからどうするかだな…」

 園内には特に変わった様子はない。そのため泰三たちはどこに行けばいいのか迷う。

「環がプレリュードに遭遇した場所にでも行ってみるか?」

 そこは、動物園の牧場広場。しかしそこにも、何も無い。

「泰三、やはり『歌の守護者』は活動できないほどに落ちぶれたんじゃないか? だって俺らがボコしたんだし…」
「かもな…。だがそう考えると、今はシャイニングアイランドに監視役はいないのか?」

 勇宇とそんな会話をする。泰三は『歌の守護者』の任務は、園内の監視と推理した。そしてその読みは当たっている。さらに、現時点では機能していないという点も。

(日を改めるか…? いや、それはできない! 『歌の守護者』が動けない今がチャンス。この機は逃せん!)

 この日、彼らは別行動しようとはしない。それは最悪、合流できなくなる危険性を孕んでいるからだ。昨日、五人も行方不明になっているので、もうそんなリスクは冒せない。


 一方管制室では、直接対戦の機会がなかったメヌエット、相手が本気ではなかったノクターンとララバイがスタンバイはしている。

「どうする、色部様? また例のヤツら、ですよ…」

 ララバイがモニターを指差して言った。

「う~む……。『惑星機巧軍』はまだ来ないから、お前たちにしか出動命令は出せないが……それもできない…」

 苦しい選択を迫られているのは、泰三たちだけではないのだ。

「あ、あの…? 『惑星機巧軍』が、ここに来るのですか? あんな野蛮なヤツらが?」

 驚きを隠せないララバイ。

「仕方あるまい! 俺よりも上のご意向だ、これは逆らえん。だがな、ここも凌がなくてはいけない………」

 すると、

「ノクターンは思った。『太陽の眷属』に任せてみてはどうだろうかと。彼らの忠誠心には期待できないとしても、その場しのぎの働きはしてくれるのではないだろうか。だから彼女は色部様に意見することにしたのだ」
「本気か、ノクターン…? だが、いい考えかもしれん…」
「と、おっしゃいますと?」

 その意味をメヌエットが尋ねる。

「考えてみろ、『太陽の眷属』は元はアイツらの仲間だ。裏切ってこちらについたことは、ヤツらはまだ知らないはず。不意打ちできる。それに………」

 色部には、もう一つの考えがあった。
 それは、昨日捕えた神通力者…綹羅のことだ。

「あの小僧が使えるだろう。俺の上司が仲間に加えたアイツは、強者だぞ? プレリュードを打ち負かすほどの実力者! それにヤツらのことを、既に仲間とも思っていない」

 今、綹羅は別室で待機している。

「よし、こうしよう! 『太陽の眷属』と同時に、綹羅を投入する。『太陽の眷属』には、ヤツらを分散させる役目を与えろ。そして綹羅には……二度とここに来れないよう敵を蹂躙してこいと言え!」
「わかりましたわ…」

 メヌエットがマイクを持って、指令を出す。


 突如、園内に放送が響く。それはサプライズパレードの案内だった。今度はショッピングコーナーで行われるらしい。

「昨日もあったよ、この放送! 絢嘉、覚えてる!」

 五人に緊張が走る。昨日と同じということは、やはり入園したことは監視されているのだ。

「気をつけろ! どこから来るか、わからないぞ…!」

 勇宇が気を引き締めるために言った。

「あれ…ちょっと!」

 陵湖は何かを発見したらしく、指差した。

「どうした?」
「百深…じゃないの?」

 間違いない。同じ学校に通う同級生なので間違いようがない。間違いなくその姿は百深だ。

「無事だったのか?」

 泰三も見て確認する。安心が心の中に渦巻いた、と思ったら、

「あ、待って!」

 突然、背を向けて逃げて行くのだ。

「どうするよ? 追わないと!」

 絢嘉が急かすが、泰三はこの時、不自然さを感じていた。

「まるで……俺たちを誘うかの動きだ。昨日から見かけなかったから、無事がわかったっていうのに……何か落ち着かん!」
「ということは…罠?」

 勇宇が言った。それに泰三は頷いた。

「間違いない。シャイニングアイランドは罠を仕掛けている! 問題は俺たちがわざと食いつくかどうかだ…。百深だけじゃない。果叶、遥、直希たちも助け出さなければいけないが、俺にはどうも何かから遠ざけたいようにも感じる」
「なら、二手に分かれましょう! 百深たちの救助は、私たち女子でもできるわ! 泰三と勇宇は、このアトラクションコーナーに残って! それでいいわね?」

 別行動のリスクはかなり大きい。だが泰三はこれに文句は言わない。

(大人数では、シャイニングアイランド側も仕掛けて来ない可能性がある…)

 そう考えると、ここは陵湖の提案通りに動くというのも一手。

「わかった。俺と勇宇で何とかする。陵湖、絢嘉、美織……絶対にはぐれないで戻って来い!」
「わかってるわ!」
「言われなくてもねー!」
「………」

 三人は、百深逃げたの方向に向かった。
 残された泰三と勇宇は、相手の出方を待つのみ。

「少し待って何もなければ、俺たちも陵湖の方に向かおう。それでいいな、泰三?」
「ああ。だが…」

 言い表せられない、不安を感じるのだ。泰三の腕の皮膚は、夏だというのに鳥肌だ。

(警告している…。俺の本能が、何かを感じ取って………)

 その正体は、はたして何だろうか。彼はそう思ったが、その直後、

「よくここまで来た…」

 聞き覚えのある声が、背後から聞こえた。
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