その①

文字数 2,403文字

「本当に大丈夫? 絢嘉、まだ安静にしていた方がいいと思うけど?」
「心配はいらないぜ。だって一晩経ってんだろう? なら俺は完全に回復してるさ!」

 その変な自信には、絢嘉ですら呆れる。しかし、

「綹羅の協力は、それこそ切り札になり得るわ…! 少なくとも泰三と勇宇が動けないこの状況では、彼は必要…!」
「でも、本当に行かせるの? 何が起こったのかを本人が記憶していない以上、またああなる可能性は?」

 陵湖と美織は話し合う。

「確かにゼロではないわね。けれど! 彼の意志を無駄にしたくないわ」

 結局は美織が根負けし、綹羅を連れ出すことになった。
 出発前に彼らは、泰三と勇宇が安静にしている個室に向かった。

「二人とも、大丈夫なのか…?」

 事情を知らない綹羅は、ベッドの上に横たわって動かない二人を見て心配する。

「あなたが悩んでも、傷は塞がらない…。無駄なことはしないで」

 深く考えさせないためにも、美織は綹羅をすぐに個室から連れ出した。


「いい? ここで知識を共有しておくわよ?」

 陵湖はシャイニングアイランドに入る前に、作戦会議を始めた。

「まず、わかっている神通力。美織は知ってるんだよね?」
「直希のは、ね。アイツは他人の個性を真似る……つまりは誰かの神通力をコピーできる。でも、一度に一つまでで、ストックはできないから過去にコピーした神通力であっても、都合よく再現はできない」
「よく知ってるね。直希と同じ中学出身なんだっけ? だから仲が良かったの?」

 絢嘉がそう言うと、露骨に美織は嫌な表情を見せた。

「関係ないでしょ、ツッコまないで」

 彼女は話す気がないらしい。

「次は…」
「はいはーい! 絢嘉が知ってるのは、遥の神通力だよ! 他人の神通力の無力化。それがアイツの神通力!」
「でも、私の神通力は目の前でも使えたわ?」

 陵湖は昨日のことを思い出す。確かに遥の目の前で神通力を使ったが、何も支障はなかった。

「多分、無力化できるのとそうでないのがあるんだよ。その線引きは遥だけが知ってるんじゃないかな?」

 そういうことで納得する。

「残りは二人だけど、これが一番の謎だわ…。昨日戦おうとしなかった百深はもちろん、実際に使っていたはずの果叶のも。これは実際に戦って探るしかないわね…」

 ちょっと危険だが、行かないことには何も始まらない。だから五人は入場ゲートをくぐる。そしてアトラクションコーナーに行くと、待ってましたと言わんばかりに『太陽の眷属』が立っている。

「ようこそ、シャイニングアイランドへ! って決まり文句はあんたたちには似合わないわね。今日は何しに来たのかしら?」
「あら、遊びに来ているように見えるの? あんたたちの目は節穴かしら?」

 本来ならば楽しい場所であるはずの遊園地が、殺伐とした雰囲気に包まれる。綹羅たちと『太陽の眷属』は構えた。

「誰から行く?」

 百深が言うと、直希が手を挙げる。

「美織…。君との戦いに終止符を打とうじゃないか!」

 もちろん美織も前に出る。

「待て!」

 しかしそれに綹羅がストップをかけた。彼からすれば、目の前で環を撃った張本人である直希に対し、何もしないでいることなどできない。

「協力するぜ、美織!」

 これに彼女は、文句を言わない。ただ彼の意見を受け入れるように頷いた。

「なら………直希一人に任せるわけにはいきませんね。私も出ましょう」

 すると、果叶も参戦を決めた。
 この日は、サプライズパレードの園内放送は流れない。一般客がいる状態で、彼らは戦うのだ。


「直希の神通力は、他人のをコピーすること……」

 改めて美織にそれを確認する綹羅。しかし、

「ふふん、君の神通力には、用はないさ!」

 直希は、昨日決着をつけられなかったのは、相手=美織の神通力をコピーしたためであると考えている。だから今日は別の人の神通力を使わせてもらうつもりだ。

「さあ、始めよう! 美織! ついでに綹羅……。地獄行きの片道切符、僕が切ってやるよ!」

 やけに自信満々だ。

「じゃあ遠慮なくいくぜ!」

 綹羅は地面を叩いた。するとそこから植物が生え、直希たちの方に伸びる。しかしそれは、彼らに触れる瞬間に枯れて使い物にならなくなる。

「これは…!」

 その現象に、綹羅は覚えがある。

「確か遥に向けた時と同じ…! ということは!」

 今の直希は、彼の味方である遥の神通力を得ているのだ。それは他人の神通力の無力化。厄介で面倒な力だ。
 ならば、と言わんばかりに綹羅は駆け、直希の目の前に動いた。そして拳を構えて解き放つ。が、その動きを直希は余裕で避ける。逆に綹羅の腹に膝を入れることができた。果叶が神通力を使ったのである。

「ぐ、ぐは!」

 直希はもう一撃加えようとしたが、中断した。

「危ない危ない……。全く油断してると、すぐこれだ…! 美織、君の神通力は正確なところが一番怖いよ…」

 離れたところからでも、美織は正確に直希に向けて石ころを撃ち飛ばしていたのだ。あと数秒でも気づくのが遅かったら、直希はやられていただろう。だが警戒していたからこそ、間一髪で避けることができたのだ。

「綹羅。一度戻って来て」

 身体能力が下げられている綹羅にそれは難しい。しかし彼は自分の足ではなく、植物を生み出してそれを操って動いた。

「俺の神通力は、直希には届かない…。それに果叶の神通力はまだ不明だ…。どうするつもりだ、美織?」
「あなたは果叶に集中して」
「でもそしたら、直希は?」

 さっきの攻撃で、美織にはわかったことがある。

「私の神通力は、今の直希には止められない…。やっぱりアイツの相手は私がする」
「わかったぜ!」
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