その②
文字数 2,115文字
この日の管制室の当番は、メヌエットだ。大した怪我ではなかったのですぐに復帰できた。
「色部様! 異常事態ですわ!」
「何だ?」
彼女が血相を変えるほどの事態が起きているらしい。
「神通力者が、一度に十人も! ゲートを通過しましたわ…。これは何かの予兆でなくって?」
「通常なら、確かにそれは大漁ではなく異常だ…」
モニターに映し出された彼らの顔を色部は確認した。
「だが、そうでもなさそうだな? しかし、警戒するに越したことはない。すぐに『歌の守護者』に通達を出せ。これからプレリュードに向かわせるが、彼が到着するまで手を出させるな! …ん?」
色部には、横にいるプレリュードに指示を出す前に、モニターを見ていて気付いたことがあった。
「おい、あの七番の男の顔をズームアップしろ!」
それは、綹羅だった。
「東雲綹羅…。情報によりますと、十五歳のようですが、どうかなさいましたか、色部様?」
「見たことがあるな…それもつい最近に………。あぁっ!」
思い出した。環の横にいた男子だ。
「まさか、アイツも神通力者? いいや、だったら環と一緒に来た時点でわかっているはず!」
「色部様。その時は一般人で、色部様の接触のせいで覚醒したというのは?」
プレリュードが言った。
「だが! 俺の神通力を使えば名前は必ず! そして記憶のほとんどが消えるんだぞ? 今のアイツは、そんな感じじゃない。前に見た時と同じ目をしている! 完全に記憶を保ったままだ!」
自分の神通力の仕様を誰よりも理解している色部本人だからこそ、プレリュードの意見は信じることができない。
「イレギュラーが起きたのではないですか? 偶然、それも天文学的な確率で、記憶を保持させたまま、神通力者になった……。そう考えませんと、説明がつかないのです」
冷静なプレリュードは、色部にそう言う。すると彼は、
「じゃあ何で最初に、見過ごしたんだ? 適合者ならゲートを通った時点で気づけるはずだ!」
「おそらく、隣に本物の神通力…環がいたために見落としてしまったのでしょう。神通力を発現できる者よりも、最初から神通力者であればそっちに目が行ってしまう。それだけのことです」
そして、さらに深い説明もする。昨日の時点でプレリュードは、綹羅と牧場広場で顔を合わせている。その時に神通力を使ってこなかったのは、ララバイが不意打ちで眠らせたから。
「そして、今仲間を連れてここに来た理由は一つ。環の奪還です」
その話を聞いていると色部は納得し、
「…………そうか。なら懐柔することはできそうにないな。プレリュード、具体的な対策はどうするつもりだ?」
ここでプレリュードは色部に耳打ちする。
「……わかった。それで行こう。よし、メヌエットはここに残れ。美術館でないとお前の神通力は意味がないからな。相手は多いが、こちらも『歌の守護者』を九人派遣する。綹羅と顔を合わせている者もいるから、向こうから気づくだろう」
色部は彼の提案した作戦に、ゴーサインを出した。
プレリュードは色部に頭を下げて、管制室を出た。
その時、とある人物とすれ違う。
「調子はどうだ、色部?」
シャイニングアイランドの裏側でもそれなりの地位にいる色部の名を呼び捨てで呼ぶのは、今田 豪 。今田はシャイニングアイランドの創造者なのだ。
「い、今田……様…!」
今田はモニターを見ながら、
「ほう、これは面白い。この園で神通力者同士の戦いが行われることになるとはな…。見物だ、私も観戦させてもらおう。メヌエット、横の席は空いているか?」
「え、ええ…」
そこに彼は座る。色部は、
「げ、現状ですが……。おそらく先日捕まえた環という人物の奪還が狙いだと思われます。ですが、我が『歌の守護者』は負けません! ですので今田様は、我々の報告を、お、お待ちください…」
「別にいいではないか。そうだな……彼らが戦いやすいようにしてあげよう。メヌエット! 事務局に入電だ、緊急パレードを実施させろ。一般客を引き付けるのだ」
「了解ですわ。ええっと、緊急コードは……」
色部は、今田のことを後ろから見ていた。その心境はとても焦っている。彼の前で失敗など、とてもできない。一方の今田は綹羅たちのことをチェックし、
「色部、何をそんなに緊張している? 空気が強張っているぞ?」
「そ、それは……」
「何も心配はいらない。いざとなれば、『太陽の眷属(ソーラー・オビディエンス)』を動員すれば簡単に戦況は覆せる」
それは、プレリュードが色部に提案した奥の手とほぼ同じ。
「で、ですが! アイツらは信用できるんでしょうか…?」
「何を言う? 彼らは宣言したのだろう? シャイニングアイランドに従うことを。だったら何も疑うことはない。信じるだけだ」
色部の中には色々と文句があったが、それらは口から出なかった。今田が信じると言った以上、従わなければいけない。
「色部…お前も座れ。黙ってことの顛末を見ようではないか……」
「色部様! 異常事態ですわ!」
「何だ?」
彼女が血相を変えるほどの事態が起きているらしい。
「神通力者が、一度に十人も! ゲートを通過しましたわ…。これは何かの予兆でなくって?」
「通常なら、確かにそれは大漁ではなく異常だ…」
モニターに映し出された彼らの顔を色部は確認した。
「だが、そうでもなさそうだな? しかし、警戒するに越したことはない。すぐに『歌の守護者』に通達を出せ。これからプレリュードに向かわせるが、彼が到着するまで手を出させるな! …ん?」
色部には、横にいるプレリュードに指示を出す前に、モニターを見ていて気付いたことがあった。
「おい、あの七番の男の顔をズームアップしろ!」
それは、綹羅だった。
「東雲綹羅…。情報によりますと、十五歳のようですが、どうかなさいましたか、色部様?」
「見たことがあるな…それもつい最近に………。あぁっ!」
思い出した。環の横にいた男子だ。
「まさか、アイツも神通力者? いいや、だったら環と一緒に来た時点でわかっているはず!」
「色部様。その時は一般人で、色部様の接触のせいで覚醒したというのは?」
プレリュードが言った。
「だが! 俺の神通力を使えば名前は必ず! そして記憶のほとんどが消えるんだぞ? 今のアイツは、そんな感じじゃない。前に見た時と同じ目をしている! 完全に記憶を保ったままだ!」
自分の神通力の仕様を誰よりも理解している色部本人だからこそ、プレリュードの意見は信じることができない。
「イレギュラーが起きたのではないですか? 偶然、それも天文学的な確率で、記憶を保持させたまま、神通力者になった……。そう考えませんと、説明がつかないのです」
冷静なプレリュードは、色部にそう言う。すると彼は、
「じゃあ何で最初に、見過ごしたんだ? 適合者ならゲートを通った時点で気づけるはずだ!」
「おそらく、隣に本物の神通力…環がいたために見落としてしまったのでしょう。神通力を発現できる者よりも、最初から神通力者であればそっちに目が行ってしまう。それだけのことです」
そして、さらに深い説明もする。昨日の時点でプレリュードは、綹羅と牧場広場で顔を合わせている。その時に神通力を使ってこなかったのは、ララバイが不意打ちで眠らせたから。
「そして、今仲間を連れてここに来た理由は一つ。環の奪還です」
その話を聞いていると色部は納得し、
「…………そうか。なら懐柔することはできそうにないな。プレリュード、具体的な対策はどうするつもりだ?」
ここでプレリュードは色部に耳打ちする。
「……わかった。それで行こう。よし、メヌエットはここに残れ。美術館でないとお前の神通力は意味がないからな。相手は多いが、こちらも『歌の守護者』を九人派遣する。綹羅と顔を合わせている者もいるから、向こうから気づくだろう」
色部は彼の提案した作戦に、ゴーサインを出した。
プレリュードは色部に頭を下げて、管制室を出た。
その時、とある人物とすれ違う。
「調子はどうだ、色部?」
シャイニングアイランドの裏側でもそれなりの地位にいる色部の名を呼び捨てで呼ぶのは、
「い、今田……様…!」
今田はモニターを見ながら、
「ほう、これは面白い。この園で神通力者同士の戦いが行われることになるとはな…。見物だ、私も観戦させてもらおう。メヌエット、横の席は空いているか?」
「え、ええ…」
そこに彼は座る。色部は、
「げ、現状ですが……。おそらく先日捕まえた環という人物の奪還が狙いだと思われます。ですが、我が『歌の守護者』は負けません! ですので今田様は、我々の報告を、お、お待ちください…」
「別にいいではないか。そうだな……彼らが戦いやすいようにしてあげよう。メヌエット! 事務局に入電だ、緊急パレードを実施させろ。一般客を引き付けるのだ」
「了解ですわ。ええっと、緊急コードは……」
色部は、今田のことを後ろから見ていた。その心境はとても焦っている。彼の前で失敗など、とてもできない。一方の今田は綹羅たちのことをチェックし、
「色部、何をそんなに緊張している? 空気が強張っているぞ?」
「そ、それは……」
「何も心配はいらない。いざとなれば、『太陽の眷属(ソーラー・オビディエンス)』を動員すれば簡単に戦況は覆せる」
それは、プレリュードが色部に提案した奥の手とほぼ同じ。
「で、ですが! アイツらは信用できるんでしょうか…?」
「何を言う? 彼らは宣言したのだろう? シャイニングアイランドに従うことを。だったら何も疑うことはない。信じるだけだ」
色部の中には色々と文句があったが、それらは口から出なかった。今田が信じると言った以上、従わなければいけない。
「色部…お前も座れ。黙ってことの顛末を見ようではないか……」